2021年8月30日月曜日

【回転窓】廃虚の価値とは

  国の登録有形文化財には明治や大正のモダンな近代建築や江戸時代の雰囲気が残る古民家などが多い。文化財保存は完成当時の姿が最も重視され、そこに価値があるとされてきた▼6月に「廃虚の女王」と呼ばれる朽ちかけた古いホテルが文化財に登録された。神戸市を見下ろす摩耶山の中腹に建つ「旧摩耶観光ホテル」がそれ。「マヤカン」の愛称で廃虚ファンによく知られた存在という▼企業の保養施設として1930年に完成し戦後はホテル、合宿所と営業形態を変え93年に閉鎖。その後は使われず荒れ果ててしまった。現在は有志や地域住民らが維持補修しつつ、安全を確保した上でツアーを行い、その雰囲気を伝えている▼朽ちてしまった今の姿を美しいと感じ、建物の持つ魅力に動かされた人たちの情熱が結実し、廃虚で初めて国の登録文化財となった。マヤカンの保存・活用の取り組みは、今まで壊されるしかなかった廃虚に違う視点や選択肢を与えた▼「廃虚に価値があるのか」との賛否が起きる珍しい文化財が誕生した。取り壊せず扱いに困っている建物に対する議論が広がり、深まっていくことを期待したい。

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