2024年5月22日水曜日

回転窓/未来につなげる責任

 〈地球の生命維持システムが存続の危機に瀕(ひん)している〉。国の2023年版環境・循環型社会・生物多様性白書では、環境悪化の現状にそう警鐘を鳴らしている▼最も深刻な気候変動は「気候危機」ともいわれる喫緊の課題だ。平均気温の上昇や雪氷の融解、海面水位の上昇という形で現れ、日本でも大雨や台風による水害などが毎年のように起きている▼白書は生物多様性の損失や生態系サービスの低下を引き起こす可能性も指摘。過去50年間に地球上の種の絶滅は、過去1000万年平均の少なくとも数十倍~数百倍の速度で進行しているという。地球規模で人口増加や経済の拡大が進む中、生態系サービスの恩恵を受け続けるのが困難になるとの見方もある▼きょう22日は国連が定めた「国際生物多様性の日」。1992年のこの日に生物多様性条約の本文が採択されたことを受けた国際デーであり、世界共通テーマに沿って国内外でさまざまな普及啓発イベントが行われる▼今年のテーマは「Be part of the Plan(共に未来を)」。未来につながるサステナブルな地球を築く責任は一人一人にある。

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2024年5月20日月曜日

回転窓/伊東忠太没後70年に思う

 本堂が古代インド風の造形美で知られる築地本願寺(東京都中央区)には多くの外国人観光客らも訪れる。近くでは築地場外市場が連日大変なにぎわいを見せ、人気の観光スポットとなっている▼築地本願寺の現本堂は1934年に完成した。設計は伊東忠太、施工を松井組(現松井建設)が担当。〈建築家・伊東忠太が最新の技術を用いて東洋的な建築を追求した典型例〉〈秀逸な建築デザインを保持する震災復興期の貴重な建造物〉と中央区教育委員会の資料にある▼伊東には伝統建造物を巡りこんなエピソードが伝えられている。文化財の調査活動を担っていた臨時全国宝物取調局の幹部が講演で、日本古美術の仏像や絵画などを称賛したが、建築の芸術性には触れなかった。聴講していた伊東はこれに抗議する手紙を出したという▼こうしたことが背景にあったのか、内務省に1896年設置された古社寺保存会に当時20代の伊東も委員として加わる。翌年、現在の文化財保護法につながる古社寺保存法が公布された▼今年は建築設計と建築史研究で大きな功績を残した伊東の没後70年。改めてその足跡をたどってみたい。

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2024年5月17日金曜日

回転窓/水防月間に考える

 雨のシーズンが近づいてきた。最も早い沖縄地方の場合、昨年の梅雨入り宣言は5月18日ころ。恵みの雨が待ち遠しい一方、局地的な豪雨も懸念される▼毎年5月(北海道は6月)は「水防月間」。水害から地域を守るために各地で訓練や啓発活動が展開される▼18日には、利根川沿線の水防関係団体が主催し、千葉県内で総合水防演習を実施する。千葉県建設業協会香取支部は道路啓開を、テックフォース(緊急災害対策派遣隊)らは氾濫水排除訓練などを実践さながらに繰り広げる▼水防演習は1935年に発生した利根川の大洪水を契機に始まった。戦争が進む中で中断されてしまうが、戦後47年にカスリーン台風が発生。利根川の堤防決壊により、埼玉県内から東京都内にかけて壊滅的な被害をもたらした。水防活動や訓練の重要性が再認識され今に至る▼気候変動の影響もあり自然災害が激甚化している。ハード・ソフト両面の備えとともに、技術と危機意識の継承が欠かせない。現在もブラジル南部やアフガニスタン各地で洪水が発生し、住民が被害に苦しんでいる。何ができるのかを自分事として考えていきたい。

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2024年5月16日木曜日

回転窓/ゼブラの挑戦者

 福島県に住む友人が果物を送ってくれた。市場に出せない規格外のものだが、形や大きさで味が変わることはなく、おいしくいただいた。同県国見町が拠点のベンチャー「陽と人」(ひとびと)を通じて購入したという▼同社は2017年の創業後、規格外の果物を都市部の青果店に流通させ、干し柿の製造工程から出る皮で化粧品も開発。企業として収益を確保するだけでなく、地元農家の所得向上にもつなげている▼社会貢献と持続的な成長の両立を目指す新興企業は「ゼブラ企業」と呼ばれる。群れで支え合うシマウマに由来する概念で、17年に米国で提唱された。時価総額を重視する「ユニコーン企業」とは対照的な存在に位置付けられる▼政府が地域の新たな担い手としてゼブラ企業の支援に乗り出す。6月から全国でモデル事業を展開し、地元企業や地方自治体との連携を後押しする。地域の課題解決に取り組む企業の創出や投資拡大を図るのが狙いだろう▼眠っている地域資源を掘り起こしたり、地方と都市の魅力を組み合わせたりして地方創生を目指すゼブラ企業。建設業からも多くの挑戦者が出てきてほしい。

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2024年5月15日水曜日

回転窓/ハチのふるさとの包括管理

 東京都渋谷区の渋谷駅前で、行き交う人たちを見守ってくれている忠犬ハチ公像。モデルとなった秋田犬のハチは、秋田県大館市の生まれと知られている▼市内には主人を迎えたような優しい表情や、高台から里山を力強く見渡すなど、さまざまな姿のハチの像がある。市は配布物にハチのシルエットを記すなど、ふるさととしてのPRに余念がない▼先週8、9日、国土交通省「地域インフラ群再生戦略マネジメント(群マネ)実施手法検討会」の小澤一雅座長らが同市を訪れた。道路や河川といったインフラの包括管理を視察し、自治体の枠を超えて地域のインフラを適切に管理する群マネの議論に生かすのが狙い▼業務を委託する市、受託した企業グループの代表とも、人口減少下で効率的にインフラを管理する上で包括管理の必要性を強調。福原淳嗣市長は官民連携による「公共サービスの持続可能性の担保」に意欲を見せた▼ハチは1923年11月の生まれ。昨年に生誕100年の祝いが同市や渋谷区で盛大に行われた。地域のインフラがハチのように長く愛着を持たれる存在であり続けるため、包括管理の効果に期待したい。

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2024年5月14日火曜日

回転窓/気になる店舗探訪

 一度は訪れたいお店がだれしもあろう。東京・原宿に昨夏開店したギターの老舗ブランド「フェンダー(Fender)」の世界初旗艦店に先日伺い、歴史的な名器から最新のモデルを見て回った▼地下1階から地上3階の4フロアでエレキギター・ベースやアコースティックギター、ウクレレ、アンプ、アクセサリーなどを展示販売。試奏スペースに小型のギターアンプとイヤホンが用意され、気になる楽器の音色を自由に堪能できる▼ギター1本の値段が100万円を超えるカスタムショップ専用フロアも。店員の方に話を聞くと、為替の影響はあるものの、年代物のビンテージを模した新品の価格帯もかなり上がっているという▼憧れのアーティストが使っていた古い年代のモデルを、自分も手に入れたいと思うのはファン心理からすると当然。新品でも使い込んだ楽器の風合いや傷などを再現したエイジング塗装のモデルが人気のようだ▼コロナ禍の「巣ごもり需要」を受け、低迷していた楽器業界にも活気が戻ってきた。近いうちにまた来店し、希少なギターやベースを試奏させてもらいながら、音楽談議に花を咲かせたい。

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2024年5月13日月曜日

回転窓/脳の働きを知れば

 あまり肩肘張らずに仕事や生活をしていれば、悪いことが重なってもいずれ良いこともあり帳尻は合う。そう思えて好きな川柳がある。〈アバウトに生きて帳尻合っている〉▼川柳作家・加藤佳子さんの句集『川柳作家ベストコレクション 加藤佳子』(新葉館出版)から引いた。同書には社会問題に触れたものや明るく笑えるものなど、全240句の秀作が収められている▼途中はともかく意味が通じて終わり良ければ全て良しとしたくとも、大事な原稿や書類を作成したり確認したりする時などはそうもいかない。気を付けたいのは錯覚。例えば文章中の単語で最初と最後の文字が正しいと、その間にある文字の順番が入れ替わっていても問題なく読めてしまう人が多いという▼これは人間の脳が無意識に補正して理解するためのようで「タイポグリセミア現象」と呼ばれる。平仮名やカタカナが続くと錯覚を起こしやすい▼かつて本欄で、印刷した紙と比べてモニター画面だと間違いを見つけにくいのは、反射光と透過光の違いが理由との説を取り上げた。こうしたことにも脳の働きが関係すると認識し未然にミスを防ぎたい。

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2024年5月10日金曜日

回転窓/ウオーカブルな都市へ

 土地区画整理事業が進む地元で、道路や駅前広場が新しくなった。変わったのは商店街に面する街路が一方通行になり、車の通行が減ったこと。ゆっくり散策できるまちになると商店街会長は期待を込める▼居心地が良く歩きたくなるようにする「ウオーカブル」が、まちづくりのキーワードになっている。伊勢神宮で知られる三重県伊勢市は、次期遷宮に向けたまちづくりの一環で、ウオーカブルに向けた社会実験などを2024年度に新規事業で実施する▼大阪・難波駅前では「なんば広場」が昨年11月にオープン。タクシーやバスの乗り場に利用されていたが、地元の発意をきっかけに歩行者空間に生まれ変わり、新たなシンボルになっている▼自動車交通は多くの人の暮らしを支えており、重要であることに変わりはない。そうした意義は大事にしつつも、成熟社会にふさわしい道路空間を追い求める必要があろう▼米ニューヨークで道路空間変革を手掛けたジャネット・サディク=カーン氏の来日記念講演会が、14日に東京、16日に大阪で開かれる。主催は国土交通省。新たなまちづくりのヒントになる話が聞けそうだ。

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2024年5月9日木曜日

回転窓/早急な少子化対策を

 民間有識者らで組織する人口戦略会議(三村明夫議長)からこのほど発表された「地方自治体持続可能性分析レポート」が大きな話題を呼んでいる。2020~50年に若年女性人口が50%以上減少する「消滅可能性自治体」は全国744市町村に上った▼人口減少は地方特有の現象ではなく、都市部でも起こり得る。出生率の低下や人口流出に歯止めがかからず、各自治体が対策に頭を悩ませている▼人口減少の影響は地域の足である路線バスにも及んでいる。働き方改革の一環で運転手の拘束時間を短縮する動きも重なり、減便や廃止を決めるバス会社も少なくない▼そんな中で薬局チェーン大手のウエルシア薬局は22年5月から、高齢化が進む山間地区で生活必需品の移動販売サービスを展開。高齢者の見守りやコミュニティーづくりにも一役買っている。地域のニーズを的確に捉え実行する企業への期待は大きい▼同会議は100年後も若年女性が5割近く残る「自立持続可能性自治体」に65市町村を位置付けた。これらの自治体にどのような特徴があるのか。分析に基づく施策の展開と抜本的な少子化対策が急がれる。

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2024年5月8日水曜日

回転窓/空き家問題と成長戦略

 全国の空き家が過去最多となる900万戸に達したことが、4月30日に発表された総務省の住宅・土地統計調査結果(速報値、2023年10月1日時点)で分かった▼18年の前回調査から51万戸増え、総住宅数に占める割合も0・2ポイント上回る過去最高の13・8%に。売却や賃借の相手が見つからず、誰も住む予定のない「放置空き家」も36万戸増の385万戸と右肩上がりに増え続けている▼国や地方自治体も手をこまねいているわけではない。同省の前回調査以降、空き家対策を強化する法律や条例が相次ぎ制定された。市町村の権限を強め強制的に取り壊せるようにした一方、古民家カフェのような収益施設への転用・改修を財政や税制などで手厚く支援できるようにした▼政府は空き家を含む「既存住宅流通及びリフォーム」の市場規模について、30年までに直近18年の12兆円から14兆円に引き上げる目標を掲げる。潜在的なビジネスチャンスは大きい▼実家や持ち家などの処分、管理をどうするのか。空き家問題には多くの人が遅かれ早かれ頭を悩ませることになる。支援策も有効に生かし、空き家発の成長戦略に期待したい。

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2024年5月7日火曜日

回転窓/東アジア初の世界パラ陸上

 世界パラ陸上競技選手権大会(主催・国際パラリンピック委員会)が17~25日に神戸市で開かれる。同大会の東アジアでの開催は今回が初めて▼約100カ国・地域から約1300人の選手が参加する見通しだ。当初は2021年に開かれる予定だったが、コロナ禍で2度の延期を余儀なくされた。今夏にパリで開かれるパラリンピックの前哨戦の時期となり、白熱した戦いが繰り広げられそう▼大会では新たな記録に注目が集まる。男子走り幅跳びのマルクス・レーム選手は8メートル72センチという世界記録(1月末時点)を持ち、健常者の世界記録(8メートル95センチ)に肉薄する。カーボン繊維強化プラスチック製の義足や時速30キロが出る競技用の車いすなど、アスリートを支える用具も進化が著しい▼視覚障がいのある選手によるトラック競技では、同じロープを握り合って併走するガイドランナーも参加する。限界に挑むアスリートと支える人の姿は、われわれに大きな感動を与えてくれるだろう▼来年に2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)が開かれる関西地区。多様な人が生き生きと活躍する社会に向け良い流れを作っていきたい。

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2024年5月2日木曜日

回転窓/ルール変更を好機に

 大型連休前半の4月29日に開かれる全日本柔道選手権大会を毎年楽しみにしている。年に一度、体重無差別で男子柔道日本一を決める大会で、今年も「柔よく剛を制す」という言葉を体現する熱戦が繰り広げられた▼近年は国際柔道連盟のルールにほぼ準拠した国内大会が多い。こうした潮流の中、今大会は審判規程が大幅に改定されて注目を集めた▼ゴールデンスコア方式の延長戦を廃止した上で、どちらが優勢だったかを審判が判断し勝敗を決める「旗判定」が7年ぶりに復活。試合態度や技の効果と巧拙などを総合的に比較し、攻撃を高く評価する。試合時間が4分から5分に延び、決勝は8分。世界的に珍しい無差別大会の価値や魅力を高めるのが狙いだ▼変更されたルールで勝ち抜く方法を恩師たちと熟考し、最後まで攻めの姿勢を貫いた中野寛太選手(旭化成)が6度目の挑戦で初優勝した。今夏のパリ五輪出場はならなかったが、2028年ロサンゼルス五輪を見据えて稽古に精進すると力強く語っていた▼建設業界は4月から時間外労働のルールが変わった。これをチャンスと捉えれば産業の新たな魅力も生まれる。

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2024年5月1日水曜日

回転窓/発災からまだ4カ月

 石川県内で広域農道として建設中のトンネル現場を7年ほど前に訪れた。楡原(にれはら)層と呼ばれる砂岩と泥岩のもろい地山を掘削する難工事。地滑り対策や安全衛生活動の強化により、災害なく貫通できたという▼現場取材の翌朝、同県輪島市の「朝市通り」に出かけた。朝食での旬の魚の食べ方を刺し身にするか、焼いてもらうかで迷い、定食の豪勢なあら汁に驚かされたのを覚えている▼能登半島地震の発災からきょうで4カ月。被災地では損壊した建物の公費解体が動き出しているものの、さまざまな事情から思うように進んでいないそう。同県の推計によると、申請総数は全体の3割ほどにとどまる▼道路や水道などのインフラ復旧が着実に進展する一方、被災地の多くで家屋が損壊した風景が今も広がっている。輪島市の坂口茂市長は「心情的に復旧、復興が進んでいないと言われる」と明かす▼地震による大火災で焼失した朝市通り跡も手付かずのまま。インフラの本復旧と合わせ、復興街づくりの計画をどう描いていくのか。かつてのにぎわいを取り戻すには困難もあろうが、被災地の未来を追い続けたい。

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