2024年10月17日木曜日

スコープ/膜構造告示改正、デザインの自由度向上・大スパンも可能に

 軽量な素材で柱がなく広大な空間を実現する膜構造建築物。その技術的基準を定める国土交通省告示が一部改定され、6月28日に公布・施行。これにより原則1000m2以下とした投影面積は制限がなくなり、デザインの自由度が大きく広がった。骨組みの間隔も撤廃され、大スパンの膜構造が可能になった。構造家の斎藤公男氏(日本大学名誉教授)は「告示の改正でやっとスタートに戻れた」と期待する。
 国内では1970年に開かれた大阪万博で、アメリカ館や富士グループ館などが膜構造のパビリオンとして注目された。斎藤氏は「膜構造のスタートは大阪万博だった」と振り返る。当時は建築基準法の第38条で特殊な材料や構造と規定され、第三者機関の試験で安全性が認められれば膜構造を採用できた。
 80年代以降、出雲ドーム(島根県出雲市)や東京ドーム(東京都文京区)、なみはやドーム(大阪府門真市)、こまつドーム(石川県小松市)、長居陸上競技場(大阪市東住吉区)など大規模なスタジアムが次々誕生した。ところが、2000年に建築基準法を改正し性能規定を導入。これにより第38条は削除された。
 02年に膜構造に関する告示が制定され、膜構造の取り扱いが大きく変わった。告示によって骨組み膜構造(骨組みに膜を張った構造)は膜面の投影面積が1000平方メートル以下に制限。1000平方メートルを超える場合は▽骨組みなどで囲まれる面積が300平方メートル以下▽膜面の支点間距離が4メートル以下▽屋根の形式が切り妻、片流れ、円弧のいずれか-という条件が付いた。一方、1000平方メートルを超えるサスペンション膜構造(ケーブルに膜を張った構造)は認められなかった。
 以降、駅前通路など小規模な膜構造は増加したが、大規模な建築物は単なる仕上げ材料としてしか膜構造が使われず減少。膜を生かしたシンボリックな建築物が減ってしまった。
 膜構造を採用した大規模建築物は減ったものの、告示で制度が簡素化され施工実績は伸長した。告示制定から20年以上が経過し、材料や構法の技術開発も進展。強度や耐久性、安全性も広く評価されるようになり、膜構造に関する告示の一部改正が決定。技術的助言も公開された。
 告示改正の柱は「膜面の投影面積の制限の合理化」と「膜材料等の変形制限の合理化」の二つ。投影面積は制限がなくなり、骨組みまたは周囲のケーブルで囲まれた面積が1000平方メートル以下であれば、膜構造の建築物を設計できる。4メートル以下の支点間距離の制限もなくなり、屋根の形状を自由に変えられる。
 サスペンション膜構造も骨組み膜構造と同様の扱いになった。万が一の膜破損時の対策として、支柱の変形や損傷が生じない構造や投影面積1000平方メートル以内ごとに膜面が分割できれば採用できる。仕様規定から性能規定に移行したともいえ、▽強度▽形状自由度▽軽量性▽ケーブルとの併用▽開放感-といった膜構造のポテンシャルが発揮できるようになった。
 「これまで空白の20年だった。前回の告示は建築界から膜構造を遠ざけていたが、今回の告示はそれを突破できる」と斎藤氏。例えば投影面積が1200平方メートルの直径40メートルの休憩所の場合、改正前は骨組みが32分割だったが、改正後は4分割で済み、膜のスパンが8倍に拡大する。ケーブルとの併用で鉄骨の重量も半減できる。
 別の例では柱が10メートルピッチのスポーツ練習場(50×60メートル)の場合、骨組みを大幅に減らすことができ、膜スパンが6倍に拡大。ケーブルを併用すると鉄骨の重量を85%減らせるという。しかも骨組みなどは告示化される前と比べ少量になり、材料の製造や施工時に発生する二酸化炭素(CO2)を削減し、低炭素社会の実現にも貢献する。
 斎藤氏は「海外では膜構造のスタジアムがどんどんできている。ダイナミックさを表現でき、美しいデザインが期待される。透明性や透光性に優れ、軽量で施工もしやすくなる。建築がもっとサステナブルに生き続けられる」と展望する。
 近年はJR山手線・高輪ゲートウェイ駅(東京都港区)や北大阪急行電鉄・箕面萱野駅(大阪府箕面市)の屋根に膜構造が採用されている。25年1月に開業する大阪メトロ・夢洲駅の屋根も膜構造だ。駅舎にとどまらず空港やスポーツ施設、子どもの遊び場など多様な用途で採用されている。今後は軽量な膜構造のポテンシャルを生かした建築物が続々と誕生することが期待される。
 □画像の説明□
 改正前の規定では骨組みが多く単調なデザインになったが、改正後は骨組みが少ない大空間や自由なデザインが実現できる(画像はすべて太陽工業提供)




from 論説・コラム – 日刊建設工業新聞 https://www.decn.co.jp/?p=168001
via 日刊建設工業新聞

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