2024年10月18日金曜日

建築へ/佐藤総合計画、「共環域」をキーワードに新たな都市戦略を提案

 佐藤総合計画は、「共に一体となって環境をつくりだす領域」を意味する「共環域」というキーワードで、新しい都市戦略を提案していく。都市にある隙間を生かして、建築が取り巻く周囲の環境と一体となった領域を形成し、大地の循環を生み出すような新たな枠組みづくりを目指す。人口減少が進み、都市の在り方に変化が求められる中、人間と動植物が生き生きと共存できる未来を考えていく。
 1日に東京都墨田区の東京本社で開いた創立79周年イベントで構想を明らかにした。シーズ提案「共環域-大地の循環による都市の未来戦略-」と題して発表し、参加した同社関係者らと意見を交わした。
 鉾岩崇社長は「シーズとは社会に眠っている種だ。社会がより良くなるものを発見して実現することが社会貢献となる」と表明。気候変動の影響に触れた上で、「私たちにできることを真剣に考えないといけない」と強調し、「単体のZEBは多くの実績があるが、単体だけではなく都市やエリア全体で考えることが重要だ。共環域という新しい概念を提案する。大地を介して、建築を取り巻く小さな循環のまとまりとなる」と説明した=図〈1〉参照。
 都市に降り注いだ雨が豊かな土壌や森林を生み出し、流域を形成することで、自然の再興を促していくような循環をイメージしている。ただし、現状では都市の大部分がアスファルトやコンクリートなどの人工物で覆われている。このため、人口減少下で都市に生じている低未利用地などの隙間を活用する方向性を提示。▽都市をはがす▽都市を流域で考える▽都市の隙間をつなぐ-という三つの方法で取り組むことで、共環域を生み出すとした=図〈2〉参照。
 最初の段階では、アスファルトなどの人工物で覆われた表層を取り除く。現状では捨てられている落ち葉や落枝などを露出した大地に供給して、日本由来の土壌である黒土を回復していく。保水性や吸水性を高めた肥沃(ひよく)な土壌にしていくことで、植物の成長と雨水の浸透を促進する。
 さらに流域治水の考え方を都市に持ち込むことを提案。建物と周辺環境が連携しながら小さな流域を作りだし、雨水を循環に組み込んでいく。具体的には、降った雨がゆっくりと時間をかけて流れていくような仕組みを、建物に取り入れる。建物同士が連携して、こうした機能を担うことで都市自体が自然の地形のように振る舞い、生み出した土壌に水を流していくイメージとなる。都市の隙間に水が浸透する土の道を設けることで、都市全体に新たな流域を生み出していく可能性にも言及した。
 こうした取り組みに合わせて、都市に点在する隙間をつなげて都市型の森林を創出する。同社が東京都新宿区の神楽坂地区を対象に考察したところ、直径500メートルの範囲に1461カ所の隙間が存在し、道路などの余白を活用することで、隙間のネットワーク化を図れる可能性があるという。
 同社が設計を手掛けたプロジェクトに、共環域を創出するきっかけになるような事例がある。具体例に挙げたのは、世田谷区立保健医療福祉総合プラザ(東京都世田谷区)とヒューリック両国リバーセンター(東京都墨田区)。
 世田谷区立保健医療福祉総合プラザでは、金網状の雨樋(あまどい)に入った軽石で排水遅延などをもたらす「ジャカゴ樋」を考案するとともに、緑化した各階バルコニーが雨水を一時的に蓄える仕組みを取り入れた。ヒューリック両国リバーセンターでは、水の循環を妨げない形で、隣接する隅田川の水を熱源に利用している。
 同社は共環域が連なる新たな都市再生を、目指すべき未来の都市像の一つとして提案していく。鉾岩社長は「大地の循環による都市の未来戦略はあくまで仮説だ。設計を通して実証してほしい」と呼び掛けた。
 細田雅春代表取締役会長は「道路が整備されることによって都市が発展されてきた。大地を剥がしていく行為がどれだけできるのか、車社会をどう考えていくのかが課題だ」と指摘した。人間の感性に訴えていく重要性にも言及し、「もっと人間の根本的な感性に響くように結び付けていかないと輪が広がっていかない」と述べ、共感を広げていく方向性を示した。




from 論説・コラム – 日刊建設工業新聞 https://www.decn.co.jp/?p=168036
via 日刊建設工業新聞

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