足元の経済成長率がアジア各国で中国に次ぐ高さを維持するフィリピン。15年6月の日比首脳会談で両国間の重要案件への支援の枠組みが合意され、同11月にはマニラ首都圏とその南北郊外を結ぶ「南北通勤鉄道事業(マロロス~ツツバン)」を対象に総額約2420億円の円借款を供与する契約が調印された。16年は日比国交正常化60周年の節目となり、両国の協力関係が一段と深まることが予想される。比政府はインフラ整備を国際競争力向上のための重要課題に位置付けており、日系関連企業の活躍の場も広がりそうだ。
◇鉄道関連のSTEP案件推進◇
フィリピン経済は、堅調な国内消費や出稼ぎ労働者からの送金などに支えられ、6%前後の高い成長率を維持する。一方で、都市部のインフラ整備は依然として遅れが目立ち、インフラ分野への投資をさらに促進することが、持続的な成長には不可欠とされる。
日本と同じく、自然災害の多発国であるフィリピンでは、台風や洪水、地震、火山噴火などの被災リスクが高い。国際的な防災関係機関の統計では、東南アジアでの自然災害の発生数(1990~2009年)を各国別に分けると、同国が29%と、インドネシアの28%を抑えてトップ。被災者数の割合は40%に達し、2位のタイ(23%)を大きく上回る。それだけに、都市圏のインフラ整備に加え、治水や砂防など日本の防災技術への期待も高い。
国際協力機構(JICA)の統計によると、日本からフィリピンへの開発援助の実績は、1971~2014年度の円借款の承諾額が累計約2・4兆円に上る。支援分野別の割合は運輸39%、電力・ガス12%、灌漑かんがい・治水・干拓10%など、インフラ関係が上位を占める。14年度は承諾額で195億円、貸付実行ベースで545億円(実施中案件20件)となる。
無償資金協力の14年度までの承諾額は累計1662・8億円。上水道や海運船舶、災害援助など6件の事業を支援中だ。技術協力には累計2192・2億円を供与し、公共・公益事業をはじめ、農林水産やエネルギーなど多分野にわたって支援活動を展開してきた。
マニラ首都圏鉄道ネットワークのインフラ整備ロードマップ (JICA提供資料に基づき作製) |
首都圏開発の基本計画に位置付けられる長期計画では、都市構造の転換に向けて▽高密度居住中心地区の郊外移転▽外縁部の受け皿整備▽副都心の育成▽中心地区の再開発-などの施策を列挙。地域開発の促進では南北交通軸(高速道路と郊外鉄道)の整備を核に、ニュータウン開発や既成市街地(港湾地区、国際空港周辺、ウオーターフロントなど)の改善・再開発を一体的に進める方針を示す。
マニラ首都圏の都市化問題のうち、特に深刻化する交通渋滞への対応が急務となる。昨年6月にアキノ大統領が来日した際には、マニラ首都圏への近代的・効率的な交通ネットワーク構築に向け、30年までに質の高いインフラを整備するための協力ロードマップに日比両政府が合意した。
JICAは同11月に比政府が進める「南北通勤鉄道事業(マロロス~ツツバン)」を対象に2419億9100万円を限度とする円借款の貸付契約を締結。ロードマップの中でも優先案件に位置付けられる同事業を積極的に推進する。
計画では北部のブラカン州マロロス市からマニラ市ツツバンまでの通勤線区間(延長約38キロ)の整備により、交通ネットワークの強化と交通渋滞の緩和を図る。総事業費は約2879億円を見込む。21年12月の完成を目指している。本邦技術活用条件(STEP)が適用され、これから詳細設計に着手する。高架部分の施工技術や信号システム・車両などへの日本の技術の活用が期待されている。
マニラ首都圏北部のカローカン市、ブラカン州メイカウヤンと南部のカビテ州ダマスリニャス間を対象に、地下鉄を含む都市鉄道(施工延長約60キロ)を整備する「メガマニラ圏地下鉄計画」では、事業化支援に向け、JICAが行う今後の協力準備調査でSTEP適用の可能性を探る。
フィリピンの建設市場には現地企業のほか、コスト競争力に勝る中国や韓国勢なども参入しており、単純な価格勝負では日本企業の受注は厳しい。こうした事業環境を踏まえ、JICAの担当者は「高度な技術力が求められるインフラ案件の潜在的需要は小さくない。日本の建設企業が現地で事業を拡大する余地はある」と分析する。
◇AIIBの動きや大統領選も注視必要◇
5月には大統領選挙が行われ、現アキノ政権の改革路線が引き継がれるかどうかに注目が集まる。仮に新・国家開発計画など従来の政策とは異なる方針を新政権が打ち出せば、日比両政府がこれまで築いてきたインフラ分野での協力関係も見直しを迫られそうだ。
中国の主導で今月開設されたアジアインフラ投資銀行(AIIB)の今後の動きは、アジア圏の開発援助のあり方を変える可能性が指摘される。当初加盟国としてAIIBへの参加を昨年末に決めたフィリピンに対し、日本はAIIBとは距離を置いており、両国間の開発援助の枠組みへの影響も考えられる。
インフラ開発需要が旺盛なアジア圏で、新興国・途上国への支援を通じて自国の影響力を強めようとする動きは今後さらに活発化するとみられる。質の高いインフラ輸出の推進で、高度な技術・ノウハウを持つ日本の建設関連企業の存在感が一段と高まりそうだ。
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