日本一の鉄筋技能者が新潟に誕生--。全国鉄筋工事業協会(全鉄筋、岩田正吾会長)主催の第5回全国鉄筋技能大会「TETSU-1グランプリ」が6日、静岡県富士宮市の富士教育訓練センターで開かれ、新潟県鉄筋業協同組合代表の廣田直木選手(42、佐藤鉄筋)が1位に輝き、「最強鉄筋工」の称号を手にした。出場したのは各地区予選会を勝ち抜いた精鋭35選手。限られた時間内で日頃現場で鍛え上げた技を披露し、熱い戦いを繰り広げた。
大会は、鉄筋工の技能向上を目的に2015年から隔年で開催している。会場となった富士教育訓練センターには早朝から各選手の応援団が駆け付け、競技開始前から選手の名前の入った横断幕を壁一面に貼り付けるなどし、応援態勢を整えていた。
開会式の冒頭、新妻尚祐大会実行委員長は「われわれの仕事は普段仮囲いの中で行うので、一般の方が見ることは少ない。鉄筋工の技能や技がどれほどすごいのか、この大会を通じて多くの人に見てもらい、鉄筋工の格好良さを知ってもらう」とあいさつした。
競技は国家技能検定鉄筋組み立て1級の問題にはら筋一段を追加した課題の製作を、作業時間と精度の両方で競い合う。午前の前半組、午後の後半組に分かれて競技が行われ、標準時間は1時間20分。打ち切り時間は1時間40分。選手は多くの観衆が見守る中、やや緊張した表情で黙々と鉄筋を組み上げていた。
作業時間は回を重ねるごとに早くなり、前半組は40分台で作業を終える選手が続出。プロの職人が見せる手際の良さに会場から大きな拍手が送られた。競技終了後は採点員がそれぞれの出来栄えや精度を細かくチェックし、作業時間と出来栄えの両方でそれぞれ採点を行った。
ある大会関係者は「作業終了時間がどんどん早くなってきており、どの選手もかなり練習を積んできていると感じた。上位に入るには作業スピードだけでなく、出来栄えや精度が求められる。それを両立できる職人が、1位に選ばれるだろう」と競技を振り返った。
採点結果は、富士教育訓練センターの加賀美武専務が発表。1位は廣田直木選手、2位は関西鉄筋工業協同組合代表の高木昌弥選手(29、KANO CENTER)、3位は群馬県鉄筋工業組合代表の萩原大地選手(31、小椋工業)が入賞した。
閉会式で岩田会長は「まず大会の準備に当たってもらった各スタッフにお礼を申し上げたい。各県を代表されて出場された選手の方々には、誰が優勝してもおかしくないと思うほどの迫力と熱量を感じた。大会終了後も一層技能を磨き、またこの大会に挑戦してもらいたい」と締めくくった。
□「これが最後」3度目の挑戦でつかんだ栄冠/新潟県鉄筋業協同組合代表の廣田直木選手□
3度目の挑戦。「これが最後」と心に決めて挑んだ今大会。終わってみれば、念願の「日本一の鉄筋工」の称号を手中に収めた。「練習時間の確保など、家族や会社の人たちがこれまで応援してくれたおかげ。感謝の気持ちを伝えたい」。
練習は大会の2週間前に開始。「何度も組み立てを行い、計50回ぐらいはやった。作業スピードも上げながら、精度に気を付けながら練習した」。ただ、競技本番になると会場の雰囲気に飲まれ、緊張のあまり思うような動きができなかった。
練習の時よりも5分程度遅い48分で組み立てが終了。その後出来栄えなどをチェックし、正式なタイムは52分。既に何人かの選手が競技を終えており、タイム的には後れを取った。「練習時のタイムよりもかかったが、精度は納得できた」と、内心では「いける」という気持ちもあった。
鉄筋工になって約20年。会社はコシヒカリで有名な米所、新潟県南魚沼市にある。就職先として建設業に進もうと考えていたが、鉄筋業に入職したのはたまたま職業安定所の紹介だった。「鉄筋の仕事は好きだし、やりがいもある。自分が携わった建物が完成すると、達成感もある」という。
今回の優勝を契機に「日本一に恥じないよう現場でも精度の高い仕事をしたい」。実母と妻、子ども2人の5人家族。大会前には「子どもたちに技能者としての父の背中を見せたい」と語っていたが、きっと大きな背中が見えたことだろう。
□外国人選手やママさん選手も参加□
今大会に出場したのは全国の予選会を勝ち抜いた35選手。その中には外国人選手やママさん選手もいた。関西鉄筋工業下請連合会代表のレー・ヴァン・トゥン選手(41、田村工業)は、大会初の外国人参加選手となった。既に1級鉄筋技能士の資格を取得済みで、今大会では「これまで培ってきた技能を発揮し、日本で活躍する礎にしたい」と意気込みを語った。
岡山県鉄筋協同組合代表の岸田彩花選手(27、出井興業)は3人の子どもの母親。実家が鉄筋工事会社で、鉄筋工になって約10年。「朝、保育園と小学校に子どもを送り、その後現場に行っている。鉄筋の仕事は楽しく、体力が続く限り続けたい」という。競技後の感想を聞くと「結束のスピードなどレベルの高さを感じた。もっと技能を高めていきたい」と語った。
from 論説・コラム – 日刊建設工業新聞
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