建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律(建築物省エネ法)に基づく省エネ基準への適合が4月に義務化されるのを控え、適合判定のための計算需要の急増が見込まれる。国土交通省の試算によると新たに計算対象に加わるのは小規模非住宅・住宅の年間約42・7万棟。既に対象になっている中・大規模非住宅など(年間約3・3万棟)と比べ、著しく増加する見通しだ。着工難民が出かねない状況を前に、計算を担う代行会社は、人員の増強やシステムの導入といった体制強化を急ぐ。
これまで適合義務を課していたのは、大規模(延べ2000平方メートル以上)と中規模(同300平方メートル以上)の非住宅。大規模・中規模の住宅には適合は求めず、計算と届け出だけを課していた。延べ300平方メートル未満の小規模非住宅・住宅は、施主への説明だけでよく、計算は任意だった。
こうした中、2022年公布の改正建築物省エネ法で、原則全ての新築を対象に基準適合が義務付けられた。25年4月1日に施行する。非住宅・住宅を問わず、小規模から大規模まで全ての新築が対象。政府は今後、義務基準を随時引き上げ、30年ころにはZEB・ZEH水準に高める方針も示している。
今回の適合義務化で浮上しているのが、計算需要の処理の問題だ。20年の着工棟数を基に整理すると、既に適合義務が課されているのは▽大規模非住宅約3000棟▽中規模非住宅約1・1万棟-の約1・4万棟。これに▽小規模非住宅約3・2万棟▽大規模住宅2000棟▽中規模住宅約1・7万棟▽小規模住宅39・5万棟-の計約44・5万棟が加わる。既に計算・届け出義務が課されていた大規模・中規模住宅を除けば、小規模非住宅と小規模住宅を合わせた約42・7万棟が、新たに計算や適合に取り組むことになる。
省エネ計算を手掛ける「環境・省エネルギー計算センター」(東京都豊島区)の尾熨斗啓介代表取締役は地方の工務店などを念頭に、「ほとんど省エネ計算になじみのない人が、一気に適合義務を課されることになる。混乱が予測される」と指摘する。同社は年間約1000棟の省エネ計算をこなし、国内には同規模の団体が10~15団体程度あるとされるが、尾熨斗氏は「現状では受注しきれない。省エネ計算会社や民間検査機関がパンクし、着工難民が出るのではないか」と警鐘を鳴らす。
適合判定は建築確認と合わせて実施する。建築主は省エネ計画を所管行政庁か登録省エネ判定機関に提出。交付された適合判定通知書を、建築主事か指定確認検査機関に提出し、確認済証の交付を受ける流れとなる。省エネ計画の作成が滞れば、建築確認の手続きに遅れが出かねない。尾熨斗氏は24年度内に駆け込み着工の動きが出始めているとした上で、25年度以降の業務量増加を見据え「省エネ計算会社などに発注予約をかけてほしい」と呼び掛ける。
省エネ基準への適合義務化は建築費や住宅価格のさらなる高騰を招く可能性もある。基準を満たすため、外皮性能や設備性能を底上げする必要があるためだ。一戸建て住宅の場合、外皮性能と1次エネルギー消費性能の両方で基準を満たす必要がある。外皮では躯体や開口部の遮熱、日射の遮蔽(しゃへい)などが必要。1次エネルギー消費性能を高めるには空調や照明、換気、給湯といった設備類の性能を上げたり、再エネ設備を導入したりするのが有効だ。いずれもコストは建築費や住宅価格に跳ね返る。
共同住宅の場合、外皮性能は住戸ごとに基準を満たせばよい。1次エネルギー消費性能は住棟全体での基準達成が要件。非住宅だと外皮性能は基準適合の必要はなく、1次エネルギー消費性能だけでの適合を求める。ただ空調の効きやすさなどは1次エネルギー消費性能に直結するため、外皮性能を高めた方が適合は容易と言える。
市場環境が大きく変わるのを前に、同社など省エネ計算を手掛ける企業が対応を急いでいる。尾熨斗氏は状況を注視するとした上で「人員を増やしていくなどの対応も必要だろう」と先を読む。業務効率化に向けたシステムの開発にも取り組んでおり、手計算より3、4割程度効率化できる可能性があるという。「当社で使ってみて有効性を確認し、需要があれば(他社への)水平展開にも応じたい」と方針を明かした。
from 論説・コラム – 日刊建設工業新聞 https://www.decn.co.jp/?p=171937
via 日刊建設工業新聞
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