◇持続可能な未来へ最新技術発信
メッセ・フランクフルトが主催する世界最大級の冷暖房・空調・衛生設備専門国際見本市「ISH」が、ドイツのフランクフルトで3月17~21日の5日間にわたり開催された。「持続可能な未来へのソリューション」をテーマに、冷暖房設備や空調機器など54カ国・地域から2183社が出展。業界最先端の技術やトレンドを発信した。日本企業はTOTOが大規模ブースを出展し、来場者の注目を集めた。
ISHは1960年から2年に1度の頻度で開催している。設備業界の最新技術が一堂に介し、グローバルトレンドや技術動向を見定める場として国内外から関心を集める。期間中は150カ国・地域から16万3157人が来場。全体の45%がドイツ国外からの来場者で、国際的な注目度の高さを物語っていた。
世界中から多くのバイヤーが集まるため、企業にとっても海外市場開拓の絶好の機会となっている。出展した日本企業関係者からは「実質的な商談の場となるため、念入りな出展準備を進めてきた」との声もあった。ブースを2階建てにしたり、バーカウンターを設けたりしてデザインを意識したブースも多く、各社のこだわりが感じられた。
展示会は衛生設備や配管設備、熱供給システム、ソフトウエアなど8ジャンルに分かれて行った。各社ともスマートホーム技術やIoT関連製品の展示が目立ち、今後の住宅設備業界のトレンドが垣間見えた。再生可能エネルギーや高耐久性素材など環境に配慮した製品も注目度が高かった。電気ではなく木材を熱源に使用する暖房や、排水の熱を再利用するシステムなど、日本国内ではなじみの薄い技術も多く見られた。
会場で大きな存在感を示していたのはTOTOだ。玄関口にある展示ホール「フォーラム0」に、前回に続いて1社で単独出展した。出展面積は約1500平方メートル。独自の洗浄技術や環境負荷を減らす取り組みを伝えるコーナーを設け、企業イメージを発信した。
ブースではホワイトに加え、ブラックやベージュ、グレーの4色の衛生陶器を展示した。素材や加工が異なる水洗金具や洗面台も設置され、多くの見学者でにぎわっていた。グローバル事業推進本部でプロモーションを担当する佐藤克仁氏(グローバルプロモーション推進グループリーダー)は「インテリア性を重視する欧州の文化を踏まえ、空間に調和する製品を選べる楽しさをアピールした」と展示の狙いを説明する。
ウォシュレット(温水洗浄便座)の販売拡大に向け、水道工事業者が設置作業を体験できるコーナーも設けた。「取り付けの簡易性を体感してもらい、リフォーム需要の獲得につなげたい」と佐藤氏。施工時間を計測するタイマーを設置するなど、展示方法にも工夫を凝らした。
1社の単独ブースとなるフォーラム0への出展は、製品の宣伝だけでなく、ブランドの地位を確立する上でも重要な意義を持つ。田村信也取締役兼専務執行役員(取材当時、現社長)は「世界的な影響力の大きい欧州市場で、世界のコアとなるブランドに肩を並べたことを証明できた」と話す。市場への波及効果も大きく「取り扱い先が自信を持ってTOTOの製品を提案できるブランドイメージが育った」と手応えを語った。
少子高齢化が進む欧州では、将来的な職人不足への危機感が日本同様に高い。こうしたニーズを捉え、海外での販路拡大を目指す日本企業も出展していた。ステンレス配管製品の販売を手掛けるオーエヌ工業(岡山県津山市)は、配管用ステンレス鋼鋼管の管継ぎ手「ナイスジョイント」を展示。複雑なねじ切りを省略できる施工効率の高さをアピールした。営業本部の江原泰道部長は「誰でも一定の品質を保って施工できる技術は、日本だけでなく海外でも非常に評価が高い」とし、さらなる事業成長に自信を見せた。
産業・業務用加湿器の製造を手掛けるユーキャン(東京都八王子市)も欧州での需要拡大を目指す。冷蔵室からクリーンルームまで幅広く使用できる超音波加湿器を展示。国内外の製造ラインを統一し、コスト削減と納期短縮を実現した。現在は国内が売り上げの中心だが、棚見修一社長は「欧州市場ではフードロス対策や鮮度管理の分野で潜在的な需要が大きい」と分析する。出展を足掛かりに「海外取引量を倍増させたい」と意気込んだ。
日本GT(東京都目黒区)はバイメタルサーモスタット(自動温度調節器、温度過昇防止装置)を展示した。熱関連の家電製品や自動車、通信機器分野など幅広い用途での活用を提案し、海外市場の拡大を狙う。3度目の出展となり、営業部営業課の今藤稜係長は「展示会の規模が大きく、実際の売り上げとつながってきている」と手応えを語った。
新たな市場の開拓を目指す企業もいる。初出展となった因幡電機産業は、空調の室内配線を隠す化粧カバー「スリムダクトMD」を展示した。ドイツは電材用のラバーで室内配線を覆うのが一般的で、化粧カバーが普及していない。美観の高さや維持管理の手軽さを売り込み、新たな需要を掘り起こす。因幡電工カンパニー企画室製品企画グループの鹿嶽智史主事は「まずは新たな選択肢を提示し、業界の反応を見定めていきたい」と話す。
最新の技術やトレンドを求め、展示会場は連日多くの関係者でにぎわっていた。メッセ・フランクフルトの調査によると、来場者の約96%が「出展者の展示に満足した」と回答したという。次回のISHは2027年3月15~19日に開催される。市場ニーズの高い効率化と持続可能性を両立した製品はどのように進化していくのか。さらなる技術革新と業界の発展が期待される。
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