◇先輩ロンドンにヒント/改革で変わる海外投資家の視線
2020年の五輪開催を控えて東京の国際競争力の向上が期待される中、森記念財団都市戦略研究所(所長・竹中平蔵慶大教授)から今月、世界40都市を対象とした14年版の「世界の都市総合力ランキング」が発表された。東京は7年連続の4位。昨年より評価を高めたが、上位都市との差はなかなか縮まらず、アジアの他都市の追い上げも年々著しくなっている。東京がさらに浮上するための鍵は-。五輪を開いた12年以来、首位を維持している英・ロンドンにヒントを探った。(編集部・沼沢善一郎)
14年版ランキングによると、東京は市場の規模、経済集積、人的集積などで世界有数の都市であることが分かる。生活利便性も高く、これらが東京を上位に押し上げる原動力となっている。
一方、東京の弱点とされているのが、市場の魅力や交通利便性だ。市場の魅力については、世界的な企業の集積を意味する「世界トップ300企業」の指標で、今回初めて中国・北京に抜かれた。経済面ではアジア各都市の中で盤石の地位を築いてきた東京も、油断のできない状況にある。交通利便性については、都市内交通は充実しているのに対して、国際線直行便の就航都市が少ないことなど国際交通ネットワークの不足が指摘された。
こうした弱点の克服が、東京の上位進出の鍵となりそうだ。前例となるのがロンドン。今回、ロンドンは経済分野や居住分野の評価を改善させ、2位の米・ニューヨークとの差をさらに広げた。同財団理事の市川宏雄明治大専門職大学院長は「ロンドンは五輪を契機に弱点を克服し、急激にスコアを上げた」と指摘。竹中所長も「ロンドンは五輪のレガシー(遺産)を有効に活用している」と評価する。
ロンドンでは五輪を終えた今もまだ、不動産投資が活況だ。不動産コンサルティングなどを世界規模で展開する米国のクッシュマン・アンド・ウェイクフィールドの調査によると、主要都市の不動産投資額(13年7月~14年6月)は、1位のニューヨークに続き、ロンドンが472億5400万ドルで2位、東京が354億6700万ドルで3位と続く。
ただし、そのうち海外からの投資額となると、3都市の中でもロンドンが293億7000万ドルで断トツ。これに対し、東京は46億3300万ドルにとどまり、8位まで順位が落ちる。
ロンドンにある歴史的建造物のバタシー発電所を核とした複合再開発事業は、海外からの投資が増え続けるロンドンの現状を象徴するプロジェクトといえる。発電所一帯の17万平方メートルの敷地に、住宅やホテル、オフィス、商業施設などを建設する計画で、総事業費は80億ポンド(約1・4兆円)に及ぶ。このロンドン史上最大規模の開発プロジェクトを主導しているのは、マレーシアの政府系デベロッパーだ。世界各地で投資を募るプロモーションを展開中で、11月には東京でも説明会を開くという。
東京は、現時点ではロンドンに後れを取っているものの、20年五輪の開催決定をきっかけに海外からの視線が変わってきたことも確かだ。クッシュマン社は「日本の経済改革がグローバル投資家からの信頼を築いている」と評価。竹中所長は、政府が掲げる成長戦略の柱の一つである「国家戦略特区」の中で東京圏のプロジェクトが立ち上がりつつあることを挙げ、「海外のマスコミや投資家が東京をウオッチし始めた。東京に対する世界の熱気は高まっている」と話している。
東京五輪までは約6年。市川理事は「東京も五輪を契機に弱点を克服すれば、20年までにパリ、ニューヨークを抜いて2位になる可能性もある」とみる。その可能性を生かすも殺すも官民すべての関係者の取り組みにかかっている。
森ビルが今回の発表に合わせて開催した「イノベーティブ・シティ・フォーラム」で来日したロンドン市の関係者は、東京にこうメッセージを残した。「五輪は人生に1回しかないようなもの。都市にとっては発展が花開き、それによって自信を付けることができる機会だ。前に進み、大胆にリスクを引き受けよう。いくつものレガシーが残るはずだ」。
《世界の都市総合力ランキングとは》
森記念財団都市戦略研究所が08年から実施。世界の主要40都市の総合力を分析し、順位付けを行っている。都市の力を6分野(経済、研究・開発、文化・交流、居住、環境、交通・アクセス)の計70指標を使って比較するほか、都市活動をけん引する多様な関係者(経営者、研究者、アーティスト、観光客、生活者)の視点から都市の総合力を評価する。世界的に著名な学識者らの意見も踏まえ、専門家によるピアレビュー(第三者評価)を経てランキングを決定する。
政府が推進する成長戦略では、都市の競争力を高める施策を議論する際の指標として活用されている。舛添要一東京都知事の2月の施政方針演説でも引用された。