職人の処遇改善は道半ば… |
重仮設の専門工事会社に勤める橋本慎二さん(仮名)は「ここ数年、ゼネコンも単価を上げ、1次下請の自分たちも2次業者には利益が十分出る金額を支払っている」と話す。それでも現場の作業員から賃金が上がったとの声は聞こえてこない。「2次以下の下請は作業員の処遇改善を後回しにし、利益を設備投資に回したり、内部留保したりしているのではないか」とみる。
職人の中には、腕に自信があれば雇われの身より自分の会社をつくって一旗揚げようと考える人もいる。最近は仕事が増えて単価も上がり、事業環境は好転しているが、独立に意欲的な職人は周囲にほとんどいないという。
高校を出て20年余り。仕事をしながらさまざまな資格を取得してきた。土木、建築を問わず現場経験も豊富。3年ほど前に今の会社に入ったのも、そうした現場での縁がきっかけだった。
「自分でやった方がもうかるよ」「一緒に会社をやろう」などと声を掛けられることもあるが、「仕事ができることと会社経営はまったくの別物」と思う。職人を自ら抱えて起業した人をこれまで多く見てきたが、つぶれずに残っているのはほんのわずか。
「情に流される人は経営者に向かない。仕事がなくて苦しい時は、給料を上げずに会社の蓄えを増やすことも必要だ。現場で長年働いてきた自分では職人の立場に寄りすぎてしまい、非情に徹するのは難しい」
建設業界では今、技能労働者の社会保険加入促進策が官民挙げて進められている。橋本さんの会社でも協力業者に加入徹底を呼び掛けている。数年の猶予期間が過ぎれば、未加入の下請業者には仕事が回ってこなくなる可能性もあるが、職人の危機感は乏しい。
「日給月給の職人の世界では社会保険の大事さが理解されにくい。安定した生活を送るために社会保険の重要性や必要性をいくら説明しても、納得する職人は一握りだ」
元請の意識にも問題があると思う。「最近は人手不足の影響で単価は上がっているが、最後は結局、提示金額の低い下請を選ぶところは変わっていない」。
現場の施工条件などが途中でいくら変わっても、最初に契約した金額で何とかやってくれと元請に頼まれる。請負の世界では仕方がないと思う面もある。ただ、「コスト至上主義を改め、社員の福利厚生に手厚い企業や事故やクレームが少ない企業など、会社の資質とグレードをより重視した調達方針に転換しなければ、業界全体の処遇環境は良くならない」と考える。
人材不足が深刻化する建設業界では、入職者を増やすために初任給を引き上げようという動きもあるが、今いる職人の賃金を上げることには消極的な会社が少なくない。
橋本さんは、職人の世界では一般のサラリーマンと比べて経験年数による給料の格差が小さすぎると思っている。「新米の職人と職長級でも、1日の単価は倍まで違わない。一流企業で課長、部長クラスになれば、新米と3~4倍の差はつく。これでは職人は夢を持てない」。
高齢のベテランと若手のつなぎ役となる中間層の職人が少ないことも心配だ。中堅世代の一人として、次代を担う職人を育て、夢を持てる産業にすることに少しでも力を尽くそうと考えている。
0 comments :
コメントを投稿