2015年2月23日月曜日

中堅世代-それぞれの建設業・83/縁の下の力持ちにもっと光を

 二十数年前に建設会社に縁故採用で入社した柳下恵美さん(仮名)は、営業事務を長年務めてきた。就職活動をしていたころは建設業に特別な思いはなかったが、今は違う。会社全体で取り組んだ大型案件を受注できた時の充実感は、仕事を続けるモチベーションになっている。
 入社時の面接では海外部門への配属を希望した。願いがかなったのは2年目。基本的には国内で海外案件に応札するための英文の資格審査書類や入札書類、社内決裁用の書類などを作成することが主な業務。時には海外の現地事務所に出向くこともあった。
 今は海外の大型案件に取り組む際の査定が厳しくなり、簡単には手を出せないようになってしまったが、当時は受注を目指す案件の選別基準は比較的緩やかで、現地の国家的プロジェクトにも取り組むことができた。「受注はできなかったが、北アフリカの地下鉄建設では、諸先輩にいろいろ教わりながら営業事務として関わった。今でも思い入れが強い案件」と振り返る。
 社内では転勤のない地域職という位置付けだ。入社当時は女性の事務系社員は縁故採用だけ。数年後に一般の入社試験で採用枠を設けるようになったという。それでも女性の総合職はなく、しばらくしてから設計部門に女性総合職が入り始めた。今では建築・土木の技術系総合職で女性採用が定期的に行われ、環境は変わりつつある。一方で、事務系については女性社員はまだまだ肩身が狭いと感じる。
 「技術系・事務系あるいは総合職・地域職にかかわらず、限られたグループ長・部門長といったポジションを女性社員が男性社員と争うようになったら、会社の女性活用の取り組みも本物になる」とみている。
 建設生産に直接的に関わる技術職はもちろん、現場などを総括的に管理する経理系の事務職とも違い、営業事務の仕事はあまり目立つものではない。でも、「自分たちが毎日、申請業務や各種データ整理などを淡々とこなしているからこそ、経営や工事に関わるさまざまな業務を円滑に進めることができている。その重要さを会社はもっと自覚するべきだ」と思う。
 最近は事務職の派遣社員化が急速に進む。社内のイントラシステムへのデータ入力などのマニュアルはあるが、細かな業務改善で培った個人のスキルやノウハウの継承は簡単には進まない。「建設事業のベースのことをきっちり処理していく営業事務は縁の下の力持ちだけれど、書類作成時のアピールポイントや、データ整理を効率的に行う作業方法などは個人のノウハウ。すぐに代えが利く職種ではない」と思っている。
 建設現場の技術伝承だけでなく、事務職の人材の育成・確保にも真剣に取り組まないと、会社全体の事業遂行能力や営業力は低下する一方ではないか。それが心配だ。
 海外部門では、営業事務のベテラン社員の人たちが、今後数年でいなくなる。それを考えても、もっと先を見据えた人事戦略が必要ではないかと感じている。
 現在は、国内の土木事業部門で各支店の受注目標・実績を管理する仕事を主に任されているが、海外部門の営業事務の後継者として再異動させてもらえないだろうかとひそかに願っている。その時に備え、英語を勉強し直し、縁の下の力持ちのスキルに磨きをかけようとも思っている。

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