2016年1月4日月曜日

【インバウンド需要をつかめ】星野リゾート代表・星野佳路氏に聞く/日本人観光客数の底上げを


 ◇若者が旅の楽しさ味わえるように◇

 インバウンド(訪日外国人旅行者)効果に沸き立つ観光業界で、コンセプトにこだわった宿泊施設の運営を展開して注目を浴びているのが星野グループだ。

 代表の星野佳路氏は、インバウンドだけではなく、日本人観光客数の底上げに力を入れることが、日本を観光立国にする道だと主張する。観光産業が抱える課題やそれを踏まえたグループの事業戦略、観光産業から見た交通インフラのあり方などを星野氏に聞いた。


 --観光産業の現状をどう見ている。

 「『観光立国』という言葉が使われるようになったのは、2004年の小泉内閣の時だ。この言葉には、地方に雇用や投資を呼び込むため、観光産業を新しい地域密着型の基幹産業にしていこうという期待が込められていた。それが今は、訪日外国人が増えることが観光立国かのように言われている。しかし、訪日外国人の80%は東京、大阪、京都、北海道、千葉など上位10位の都道府県を訪れているため、訪日外国人が増えても地方の雇用創出や投資拡大には必ずしもつながっていない。地方から見ると、インバウンドの一極集中が起こっている状況と言える」 --どこに目を向けるべきか。

 「13年から14年にかけて、インバウンドの需要が1・7兆円から2・2兆円に増えた。一方で、20兆円ある日本の国内観光客の需要規模が徐々に縮小している。13~14年はこの縮小幅が大きかったため、せっかくインバウンドで増えた需要があっという間に相殺され、観光業界全体の需要は微減となった。インバウンドの増加効果だけにとらわれず観光の総需要を重視し、需要の90%を占める日本人旅行客の増加を促す必要がある」

 「インバウンドと国内観光、アウトバウンドの需要を合計すると22兆~23兆円になる。産業別に見ると、観光産業は国内では5番目に市場規模が大きい。金融と同等、自動車産業の半分もの規模がある。これほど大きな需要がありながら、地方の雇用や投資に十分に貢献できていないのは、生産性が低く利益が出にくいからだ。利益を出せる体質を作り、雇用を創出したり、投資を呼び込んで既存施設のリニューアルをしたりすることが観光産業の競争力向上につながる」

 --観光産業が抱える課題をどう解決する。

 「日本人旅行客の減少については、特に減少が顕著な若者の旅行参加率をいかに高めるかが重要だ。若者向けの割引制度を作るなど、将来の観光需要を作っていく若者たちが旅の楽しさを味わえる環境を整えるべきだ」

 「生産性の低さは、日本人旅行客がゴールデンウイークやお盆、年末年始などわずかな休日に集中してしまうのが原因だ。その解決策として、ゴールデンウイークとシルバーウイークの地域別取得を提案している。需要を分散し平準化すれば、宿泊施設や交通機関の価格が下がる一方で、観光産業は稼げる日が増えるので、正規雇用を増やせる。このような好循環を生み出せば、観光産業の生産性は劇的に改善するだろう」

--観光産業の現状を踏まえたグループの事業戦略は。

 「われわれは運営会社なので、市場に依存することなく運営のノウハウを磨いていきたい。効率的な運営と集客の仕組みがわれわれの競争力。不動産を持つのではなく、投資会社にきちんと利益を出しながら運営に一層特化することが戦略だと思っている」

 --宿泊施設で3ブランドを展開している。

 「温泉旅館ブランドの『界』は全国30カ所の温泉地をターゲットにしている。有名温泉地には必ず界があるという状態を早く作ることが目標だ。圧倒的な非日常感をコンセプトとするラグジュアリーホテルブランド『星のや』は、16年7月に東京・大手町に出店する。東京はゴールではなく出発点。大都市に日本旅館を作っていくことがテーマなので、海外の大都市にも進出し、日本旅館に泊まるという選択肢を海外のホテル業界に提供していきたい。家族連れの旅行も大きなマーケットなので、そこは『リゾナーレ』というブランドで対応している」

 --7月に金沢、富山、広島、福岡の4都市にあるシティーホテル「ANAクラウンプラザホテル」を取得した。

 「大きなマーケットがある都市観光の分野に当てるブランドがないことが現状の欠点だと考えていたので、取得に乗りだした。所有は13年に上場したリート(不動産投資信託)、運営はANAクラウンプラザホテルが担当しているので、直接経営にはかかわってはいない。ただ、将来的には都市観光の新たなブランドを作りたいと思っている」

 --ファンドを組成し、地方の宿泊施設の支援に乗りだす。

 「最初は日本政策投資銀行と折半で出資するが、成功事例を作った後は、資金ではなくノウハウを提供していきたい。宿泊施設にとってハードとソフトの良さは車の両輪だが、施設の更新に投資したくても、金融機関が利益を回収できないことを恐れて資金を出さないケースがある。そこで、ファンドを通じて、資金とそれを回収するための運営のノウハウをセットで提供することにした。それが呼び水になって地方銀行が融資をするというパターンも作れるかもしれない」

 --観光産業にとって有効なインフラ施設のあり方は。

 「空港については、格安航空会社(LCC)の航空機が、全国に98カ所ある空港へ飛ぶようになってほしい。そのためには、空港経営に民間の感覚を入れることが大事だ。全国でキャパシティーが不足している空港は成田や羽田などごくわずか。ほとんどの空港は滑走路が十分に有効活用されていない状態にある。それを打破するには、空港経営にマーケティングを導入し、世界中で営業活動をする必要がある。将来的には民間の空港運営会社に出てきてほしい」

 「新幹線は全国で整備が進んでいるが料金が高い。時間がないビジネス客にとっては利便性が高いが、時間はあってもお金がない若者にとっては旅行しにくいインフラになっている。改善が必要だ。高速道路は、観光産業にとっては整備よりもいかに需要を分散するかが重要。ホテルや航空会社は平日の料金を下げている。高速道路も一緒に通行料金を下げれば、平日に旅行することがより魅力的になり、需要の分散につながるだろう」。

 (ほしの・よしはる)1960年、長野県軽井沢町生まれ。83年慶応大学経済学部卒、86年米コーネル大学ホテル経営大学院修士課程修了。米国での就職や帰国後のシティーバンクへの入行などを経て、91年に星野温泉(現・星野リゾート)の社長に就任した。


 星野リゾートは全国で35の施設を運営している。三つのサブブランドとその他の宿泊施設、日帰り施設で構成。ブランドごとに異なるコンセプトを打ち出し、顧客の心をつかんでいる。

 
【星のや】

 コンセプト=圧倒的な非日常感に包まれるラグジュアリーホテル。

 土地の文化を施設内で色濃く表現しながら、圧倒的な非日常感のある滞在と日本のホスピタリティーをベースにしたおもてなしを追求。16年には「星のや東京」「星のやバリ」がオープンする。


 
【界】

 コンセプト=地域の魅力を再発見、心地良い和にこだわった上質な温泉旅館。

 火山大国の日本が育んだ温泉文化を現代風にアレンジし、進化を続ける温泉旅館。旅慣れた現代人が心からリラックスできる時間を提供する。

 
【リゾナーレ】

 コンセプト=洗練されたデザインと、豊富なアクティビティーを備える西洋型リゾート。

 国内外の一流デザイナー、建築家が手掛けるスタイリッシュなデザインが特徴。ファミリー、カップル、友人同士、企業研修など幅広い顧客と目的に対応できる。



【その他の宿泊施設】

 コンセプト=日本や世界に展開する個性際立つリゾートホテルと温泉旅館。

 世界各地、日本列島の北から南まで個性豊かなホテルや温泉旅館のほか、宿泊施設に付随したスキー場やゴルフ場などを運営している。

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