2019年1月21日月曜日

【中堅世代】それぞれの建設業・219

再開発は町の姿を一変させる可能性を秘めている。
だが、その実現には根気と誠意が不可欠だ
 ◇丁寧に地権者と向き合う◇

 細かいステップを着実に積み重ねていく根気が必要な仕事-。岸井亜弓さん(仮称)は勤めているデベロッパーで再開発事業の関連部門に在籍する。今の仕事を担当する前は、再開発事業を街の姿を一変させるダイナミックプロジェクトと考えていた。だが、実際に携わってみると地権者一人一人に寄り添い、さまざまな声に耳を傾ける必要があると痛感。こまやかな心遣いが事業成功の鍵を握っていると思うようになった。

 幼少期からブロック遊びが大好きで、ものづくりに興味があったという。大学で建築学を専攻し、都市開発という規模の大きな仕事に携われるデベロッパーを就職先に選んだ。入社から2年間は、分譲住宅の開発を担当する部署で経験を積んだ。再開発事業を担う部署に異動したのは4年前。念願の都市開発に関われるという喜びもつかの間、「分からないことばかりで、配属当初は寝る間を惜しんで再開発の仕組みを勉強した」という。

 現在担当しているのはその地域では規模が大きなプロジェクト。老朽化した中小規模の建物が集積し、細い街路も多いなど課題が山積する。再開発の早期実現を願う地権者が多い一方で、事業に反対している地権者も少なからずいる。

 今でこそ反対派の地権者とも話ができる関係を築けているが、担当になったばかりの頃は、事業の目的や意義を説明したくても「女じゃ話にならないから、上司を出せ」と厳しく言われたことも。「悔しい思いをしたし、うんざりすることもあった」のは一度や二度ではない。

 それでも愚痴をこぼしたくなる気持ちを抑えて地権者の元に通い詰め、どういう思いで反対しているのか徹底的に話を聞き続けた。その中で見えてきたのは一口に「反対」と言っても、背景にさまざまな思いがあるということだった。

 ある70代の地権者は旧耐震基準で建てられた小規模なオフィスビルで不動産賃貸業を営んでおり「このままビルと心中するから、開発はしなくていい」とかたくなだった。時間をかけて話を聞いてみると、過去に単独での建て替えを検討したものの、敷地の条件やコストでメリットがなかったため、開発を諦めたことが分かった。

 「一度決めたことを簡単に翻意できない」のが反対の理由。本当は息子に譲りたかった会社を自らの代で畳むという、苦渋の決断が背景にあったことも知った。もつれた糸を丁寧にほぐすように、今も「にぎわいのある良好な街並みを息子さんや次の世代に引き継ぐことができる」と再開発の意義や目的を伝え続けている。

 事業に対する漠然とした不安から反対している人などもおり、プロジェクトの実現に向けた道のりはまだまだ遠い。けれども「説明を丁寧に重ね、事業に対する理解が深まれば賛同してくれるはず」と強い気持ちで仕事と向き合っている。

 目標は「地権者全員の同意で再開発を実現する」こと。これからも地道に、そして丁寧に地権者と話し続けようと心に決めている。

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