2019年1月28日月曜日

【駆け出しのころ】日建設計常務執行役員設計部門設計代表・山梨知彦氏

 ◇生意気で失敗ばかりの自分を◇

 これまでにない大型建築をつくりたい-。こんな熱意だけで日建設計に入社した当時の私は、とにかく若気の至りで不平不満ばかり言っている、わがままな新人でした。

 「コンペも任せろ」と勇んで入社した割には、しばらくはコンペが続くと、今度は設計の実務に早く携わりたいというフラストレーションがたまってきました。そんな時、コンペの打ち合わせに向かうタクシーの中で、一緒に乗っていた設計主管の上司に「なぜ実務をやらせてくれないのか」と不満をぶつけて言い争いになってしまったことがありました。

 頭に血が上った私はそのまま途中で車を降りてしまったのですが、コンペの説明資料すべてを持っていることに気付き、これではさすがに上司も困ってしまうだろうと、別のタクシーで行き先のビルに向かいました。ビルの前では上司が待っておられ、何事もなかったかのように「おっ、待っていたから一緒に行こう」と声を掛けていただきました。さすがに私も反省し、すぐに自分の生意気な態度を謝りました。部下の話も親身になって聞いてくれる上司であればこそ、私も言い過ぎてしまったのですが、部下を引っ張っていけるのはこういう方なのだと、大変いい勉強になりました。

 駆け出しの頃にはこんなこともありました。たまたまくだらないことを思い悩み、暗い顔をして社内を歩いていたからでしょうか、当時の副社長から突然食事に誘われたのです。最後のデザートを食べながら「最近はどうですか」と聞かれたものですから、つい調子に乗って「会社を辞めたい」と口走ってしまいました。すると副社長は、笑いながら「やっとそうなりましたか。辞めようと思って初めて、社会人として一人前ですね」と、不意打ちのような言葉で励ましてくれたのです。普通なら会社の大幹部に若い社員が遠慮もなく悩みを打ち明けることなどあり得ないのでしょうが、私はそんなことも分からずに、不満をぶつけていたわけです。

 跳ね返りが強く、失敗の連続であった私のことも受け入れてくれる、懐の深い上司や先輩方のおかげで今の自分があるとつくづく思います。

 20世紀のものづくりは大量生産が美学とされ、建築にもそれをどう取り入れるかがテーマでしたが、しかし実際には、建築は手間暇をかけた個別生産が続けられて今日に至っています。こうした中、21世紀のものづくりはマスカスタマイゼーションの時代を迎えています。つまり建築の世界がICT(情報通信技術)や人工知能(AI)などをいち早く取り入れ、より効率的、高品質でありながらきちんと個別の条件を満たしたものづくりを目指すべき時代が到来したのだと思います。こういった面白い時代の建築に興味がある若い人たちと、日建設計でその実現に向けてぜひ一緒に取り組んでいきたいと思っています。

入社4年目、会社に近い店で先輩や同僚と(右端が本人)
(やまなし・ともひこ)1984東京芸大美術学部建築科卒、86年東京大大学院工学系研究科都市工学専攻修了、日建設計入社。設計室室長、執行役員設計部門副統括兼設計部門代表兼3Dセンター代表兼デザイン戦略担当兼DDL担当などを経て、18年から現職。神奈川県出身、58歳。

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