発注者との協議を通じて見えてくることもある |
ターミナル駅近くの再開発事業で施工管理に従事する進藤敏夫さん(仮名)。地域の新たなにぎわい拠点となる大型複合施設を建設中。プロジェクトに対する行政機関、発注者の期待は大きく、2年前の着工以来、「多くの人に満足してもらえるものを作りたい」と心掛けてきた。
歩行者や車両が多く、施工ヤードに制約がある。資材の納入や搬入の手配など着工前から難しい判断を迫られることが多かった。だからこそ行政機関や発注者とのコミュニケーションを密にして丁寧に協議してきた。「立場は違うが、プロジェクトを成功させたい気持ちは同じ」。発注者が初のコンセプトを採用する複合施設だったことで、さまざまな提案に熱心に耳を傾けてくれた。
大規模施設は設計変更が日常茶飯事でもある。過去の経験から必要な作業と不要な作業の選択と配分する労力のバランスが大事だと考えている。ある工程では当初予定していた鉄骨の組み立て作業の省略を決断。構造躯体をユニット化し、つり上げた状態でまとめて施工する工法を提案した結果、工期を大幅に短縮でき、受発注者の信頼関係がさらに深められた。
東京五輪を前に競技施設の工事が集中し、近隣でも大型工事が続いており、作業員の手配に苦労してきた。「工期も決して長くはなく、やれることは何でも試してみようと思った」。生産効率を高めようとICT(情報通信技術)を駆使し、省人化工法や機械化施工を積極的に採用した。協力会社との情報共有に利用したBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)の3Dモデルは、作業員同士の意思疎通にも役立ったと見ている。
それでも課題は尽きなかった。工場の生産が追いつかず、資材の不足が懸念された。発注者と協議し、一部の仕様を変更。現場は各工程の作業目標を順守することを徹底し、資材の納期を平準化することで、工程の遅延を回避してきた。
「街づくりは完成後だけではなく、建設の過程も大事」と若手にハッパをかけてきた。都心の工事は、騒音、振動、交通規制が避けられず、一時的に地域に迷惑を掛けてしまう。「工事のせいで、地域の環境が悪くなったと言われてはならない」。
少しでも地域に貢献できる方法はないかと考え、現場周辺の清掃に加えて、違法駐車を減らすためのパトロールなどを行っている。現場の仮囲いには、発注者の提案で外部の団体が製作したアート作品を掲示した。ストーリー性を持った作品はSNS(インターネット交流サイト)で大きな反響を呼び、作品を見ようと現場周辺に立ち寄ってくれた人が少なくなかった。
着工以来、無事故を続けているが、安全対策を施しきった現場でも事故が起きてしまうことがある。「油断は禁物」と自分に言い聞かせ、安全衛生水準をもう一段底上げできないか思案している。
現在は新型コロナウイルス感染症への対応が最大の課題となった。竣工が近づき、仕上げの段階に入っている。内装工事や調度品の搬入など密集・密閉・密接の3密の回避が難しい作業がある。職員と作業員の安全確保は絶対だが工程の遅れは許されない。「感染者を出さない」との決意で対策に万全を期す。
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