財務諸表の基礎となる「複式簿記」の起源には諸説あるが、おおむね12世紀ごろに考案されたと言われる。複式簿記の普及が中世イタリアの繁栄を支えた▼その代表が15世紀にフィレンツェで巨万の富を築いたコジモ・デ・メディチ。銀行家のコジモは各国に支店を設け、複式簿記と会計監査を徹底することで、銀行業を一大国際事業に発展させた▼得た利益はルネサンス期の芸術・文化振興に注ぐ。コジモ自身も古代ギリシャ哲学に傾注し、新プラトン主義を信仰した。ただ、高貴な思想と帳簿付けという仕事とのギャップに悩む。後を継いだ子供たちも文化的素養は備えていたが、帳簿には目もくれず、メディチ家は16世紀に衰退する▼ジェイコブ・ソール著『帳簿の世界史』(村井章子訳、文春文庫)から引いた。同書によると、公正な会計を実行し報告する責任と信用の伝統を築くことができた社会には複式簿記が根付き繁栄したという。会計文化が国や企業の命運を左右したということだろう▼コロナ禍で景気が停滞する中、各企業は難しいかじ取りを迫られている。決算数値がそのヒントの一つになることは間違いない。
0 comments :
コメントを投稿