2015年2月16日月曜日

中堅世代-それぞれの建設業・82/戸惑い渦巻く被災地で果たすべき役割は

 縁もゆかりもなかった東北に配属されてから間もなく20年になる。建設コンサルタントの富永正さん(仮名)は、ニュータウンや臨海エリアの開発などで変貌する故郷を目の当たりにして育った。街づくりは格好いい-。そうした憧れも後押しして、大学では土木を選んだ。
 締め切りが迫った論文を徹夜で書いていた早朝、大きな揺れを感じた。阪神大震災だった。
 あの日のことは、今でも鮮明に覚えている。実家も地元も、ぐちゃぐちゃになった。何とか元に戻したい。そうした思いから、入社時に関西勤務を希望したが、辞令に記された行き先は東北だった。そんな自分が今、東日本大震災の津波で大きな被害を受けた沿岸部で、復興まちづくりに取り組んでいる。
 仕事は深夜に及び、休みもままならない。妻にも子どもにも迷惑を掛けていると思う。でも、今までの仕事人生の中で一番のフィールドにいる。それは間違いないと思う。
 建設コンサルタントの仕事の肝は、コミュニケーションにある。発注者によって組織も相手も千差万別。得意な分野もあれば苦手なところもある。そこを見極め、足りない部分をフォローしてあげる。偉そうに聞こえるかもしれないが、建設コンサルタントはそうやって仕事をしてきた。そこに存在意義があったのに、最近は「言われたことはやります。言われたこと以外はやりません」という姿勢に変質している気がしてならない。それは、震災復興で求められるニーズとかけ離れている。
 正直な話、何をやるべきか定まっていない状態で指示が下りてくることも多い。やらなければいけない作業はしっかりとやる。だが、例え発注者の命令であっても、やる必要がないことはやらない。それを見極めるよう心掛けている。「本当にそれを今やるべきなの?」と言いたくなるような話が山ほど来るからだ。物事には手順がある。条件や合意が固まっていないタイミングで動いたら、必ず手戻りが生じる。
 何を最優先すべきかを判断する上で、指針となるキーワードは「一日でも早く」だ。無駄なことをしている時間はない。
 経験したことがないような規模の復興事業に追い立てられ、被災自治体は戸惑っている。行政担当者も自信がないのだ。
 被災地では、いら立ちや苦悩、そして希望が入り乱れている。その混沌(こんとん)にどっぷりと漬かりながらも、できるだけ早く冷静かつ客観的に判断し、現実性のある道筋を整える。それが被災地で働く建設コンサルタントの大事な役目の一つだと思う。
 最近、新たな事業領域として行政マネジメントへの展開が言われているが、少し違和感を覚える。自分たちは橋や道路などの設計を手掛け、その中でいろいろなことに気付いてきたのではないかと思うからだ。「そんなところに道路を通してどうするの? 維持管理にすごいお金がかかってしまうよ」と言うべき場面があったのではないか。われわれは単なる「設計屋」ではない。後になって「実は無駄だと思っていました」などと言うのはプロとしてどうだろう。本当に国民にとって望ましいあり方を、まずは自分たちがしっかりと考えることが大事だと思う。
 公務員にはならない。自分が必要とされるのは、今の仕事だから。

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