2022年2月7日月曜日

【中堅世代】それぞれの建設業・307

人事部でやりがいを見つけてから仕事との向き合い方が変わった

 ◇そのままの自分でいい◇

  建材をメインで扱う企業に勤務する日野幸太さん(仮名)は、営業や人事などさまざまな部署を経験してきた。挫折感を味わうこともあったが、「目の前のことを一生懸命に取り組めば、きっと人から信頼される」と信じて、必死で仕事をしてきた。入社して20年以上が過ぎた今、「仕事ってなんだろう」とふと考えることがある。周囲を楽にするのが働くということではないか。それが自分にとっての答えだ。

 インテリアに興味があった日野さんは、暮らしに直結して多くの人に貢献できると考えて、建材メーカーを選んだ。入社して最初に配属されたのは営業で、まずは自社の商品を必死になって勉強した。

 大手ハウスメーカーの担当で、全国各地のクレーム対応にも追われた。「納品物が違う」などの電話が入ると、現地確認のためにすぐに駆け付けた。楽しい仕事ではなかったが、顧客の多くは紳士的に対応してくれた。「クレームが終われば出張先で羽を伸ばせる」と前向きに考えた。

 開発や製造など工場で働く社員とのつながりも大切にした。若手の日野さんにとっては大先輩ばかり。職人気質で、仕事で手を抜くような人間は相手にされないが、「人情味が厚く、きちんと仕事をすれば親身になってくれた」。真剣勝負で取り組む姿が次第に認められるようになった。

 工場とのつながりが強まっていたため、次の異動先が人事部と伝えられたのは「青天のへきれきだった」。人事部は営業とは全く違う環境だった。外回りや出張はほとんどなく、デスクワークがメインの部署で「席に座っているのが苦痛だった」。

 採用担当として、学生と接する機会が多くなり、向き合い方が変わった。いい人材を採用するためには、学生に入社を決断してもらわなければならない。商品を売って買ってもらう営業と近い気がした。「これなら楽しみを見いだせる」。

 合同説明会用の会社紹介の動画では、気の合う後輩と一緒に家の形をした段ボールをかぶってPRしたことも。「少しくらいアホやってもいい。人事担当が楽しそうな方が会社を魅力的に思ってもらえる」。

 現在、日野さんは広報部に所属している。立場が上がった今でも誠意を持って仕事をする姿勢は変わらない。「言われたことをただやるのではなく、どうやればより存在意義を出せるのか」を日々考えている。

 休日は少年野球のコーチをしている日野さん。子どもたちに「道具を大事に」するように教えている。「物も人も大切にすれば自分のために活躍してくれる。働くことも似ている」。

 営業から人事部への異動が決まった時、顧客が「何で日野を外すんだ」と言ってくれたと聞いた。「信頼の証しと思った。うれしかった」。やるべきことに集中し真剣に取り組んだからこその言葉であり、自分の姿勢に間違いはなかった。

 仕事も人生もなるようにしかならない。もしも新人時代の自分に声を掛けるとしたらとの問いに、「そのままでええよ」と笑顔で答えた。

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