活躍の場は現場だけではない |
◇みんなが楽しくなるように◇
ウェブ関連の業界から防水工事会社に転職して5年、桜井敬さん(仮名)は「業界の在り方を変えなければ」という思いを強くしている。前職の経験や身に付けたノウハウを生かし、ホームページ(HP)の運営やSNS(インターネット交流サイト)の投稿に力を入れ、広告料を設定して収益を上げている。社内でも異色の存在だが「一度建設業の外に出た経験がとても役に立っている」と話す。
最初に建設業とつながったのは10代の時。高校を中退してぶらぶらしていた自分を見かねた父親が「友人が経営する耐火塗装会社で働かないか」と声を掛けてきた。軽い気持ちで働き始めたが、現場仕事はつらく、休みを取ることもままならなかった。「こんな所で何十年も勤め上げることができるのか…」。脳裏に浮かんだ不安と疑問は次第に「いつ辞めるか」という思いに変わった。
気持ちが定まらない日々を過ごす中、同じ現場で働いた仲間でウェブ業界に転職した人がいた。当時はHPやインターネットという言葉が世の中に広まり始めた時期。「最先端でかっこいい仕事ができる」との言葉に魅力を感じ、転職を決心した。
ウェブの仕事は忙しかったが、十数年の経験で知識は人一倍と自負できるほどになった。仕事で知り合った人と結婚した。マイホームを手に入れようと内覧会を回る中で、心の中に「成果が目に見える仕事の素晴らしさをひしひしと感じている自分がいた」。
父親の防水工事会社を継いだ友人と話す機会があり、自分の思いを率直に話した。すると「猫の手も借りたい状態だから、ぜひ来てくれ」と誘われた。ブランクの長さが不安要素だったが、「現場の仕事を任せるわけじゃない。アイデアを好きなように打ち出してほしい」と切り返された。熱心な誘いもあり2度目の転職を決めた。
建設業界に戻って感じたのは「昔と変わっていない」。現状を後ろ向きに捉えず、変わっていないだけで「変わるポテンシャルがある」と考えるようにした。若い頃に感じ納得できなかったところを、とことん変えてやろうと思った。
10代の頃に抱いた「何十年も働けるのか」という疑問の答えとして、「体を動かす以外の働き方もできる会社」を目指せばと考えた。天候が悪い日は現場に出られず、収入が減ってしまう職人の仕事。稼げないなら稼ぐ仕事を作ればいい。ウェブ業界にいた経験を生かし、会社のHPに広告収入が得られる仕組みを導入した。社員の力を借り、SNSで会社の情報をとにかく拡散してもらった。
建設業界では破天荒なやり方に反発する職人は少なくなかった。丁寧に説明し協力してもらうことに心血を注ぎ、「SNSの管理などに携わってもらった」。時間はかかったが協力の輪は社内に広がっていった。
「昔は辞めたいとばかり思っていたのに、ここまで熱く取り組むことになるとは」というのが正直な思い。これからも挑戦する姿勢を貫き、「みんなが楽しくなるように変えていこう」と考えている。
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