構造物や人物を柔らかいタッチで描く人気イラストレーター・広野りおさん。図鑑や教科書などの教材関連から行政パンフレットなど幅広い分野でイラストを提供している。土木学会(谷口博昭会長)が制作した「土木偉人かるた」や土木学会誌の表紙も手掛け、建設工事に関わる職人のイラストも自身のSNS(インターネット交流サイト)で発信している。「職人や作業員の方が個人的に好き」と話す広野さん。職人を描くきっかけや自身の作品を通じて伝えたいこと、建設業界への思いを聞いた。
--建設・土木関連のイラストを描くようになったきっかけは。
「土木学会から仕事を頂いてから本格的に描くようになった。もともと技能者や技術者、作業員、職人をメインに描いていたわけではない。構造物や都市景観を描く仕事が中心で、その一部として職人や技術者を描く程度だった。今では、土木学会などの団体やゼネコン、大学、出版社との仕事が多く、ゼネコンの求人広告なども担当している」
--イラストへのこだわりは。
「趣味で描く分には好きなように格好良ければと思って描いている。仕事で依頼された時は一体何がメインかでこだわるポイントが変わる。例えば、とび職なら道具にこだわりを持たせている。もちろん依頼されたテーマに沿って描くが私目線で独りよがりになってはいけない。風景の一部なのか、人がメインなのかでニュアンスが変わる。外国人を描くことも増えた。海外の現場では安全基準が違うため国の基準に照らし合わせて描いている」
「イラストを目にする人には単純に格好良く映したい。顔を格好良く描くのとは違って、アウトラインを重視している。例えば、職人のいでたちや作業風景、フォーム。ただ描けばいいだけではない。何のために描くのか、どういう特徴を出すのかを考えている。どういう意図でイラストを描くか、何を主張するかはイラストを描く際に大事だ。私自身、建設現場でも作業服メーカーでも働いたことがない素人だが強みでもある。イラストレーターの立場で浅く広く関わることで第三者としてのイメージを分かりやすく伝えられる」
広野さんの作品(本人提供) |
--イラストの題材や描くヒントは。
「仕事ではテーマを与えられるが、趣味で描く時は、過去のイラストやユーチューブ(動画投稿サイト)、外国の作業服カタログを参考にする。カタログはすごく面白いし勉強になる。国によって安全基準が違って国が何に重きを置いているかが分かる」
「作業服にも流行や地域性があって最近だとデニム素材が多い。日本で作業服メーカーが多いのは広島、岡山だが、上下デニム素材で着こなす人が増えた印象だ。西日本と東日本で売れている物も違う。日常生活で作業服を着て歩く人はついつい目に入る」
広野さんの作品(本人提供) |
--イラストを通じて何を伝えたいか。
「イラストを通じて、一般の人にもっと身近に感じてほしいし、建設業に対するイメージを柔軟に持ってほしい。捉え方はどうしても固定観念がある。どの職業にでも当てはまる話だが、知らない人は大きな枠でしか見ていない。『そんな仕事もあるんだな』と知ってもらえるとうれしい」
「イメージがどうこう以前に単純に知らないことが問題だ。私やゼネコン目線で格好良いと思うことが学生や子どもにとって一緒かどうか分からない。若手入職者が増えるには実際に作業服を着ている人の格好良さよりも大きな構造物を作れる格好良さを伝えることが効果的かもしれない」
広野さんが描いた安芸灘大橋の風景(本人提供) |
--今後、挑戦したいことを。
「建設関係の仕事を増やしたい。特に、土木と教材を融合させた仕事が理想だ。土木偉人かるたのような教材だと子どもが建設業や構造物を知る機会が増える。イラストをきっかけに入職者が増え、業界の活性化につながればうれしい。幼い頃から建設業界になじみがあって理解していれば業界への抵抗感もないだろう。環境を良くするのも大事だが一時的なものだ。工事現場は仮囲いがあって、一歩隔たったイメージが強い。安全面で考えたら壁があって当然だが、少しでも身近に感じてもらえるように心の壁を取り除きたい」。
1971年6月26日生まれ、50歳。90年兵庫県立神戸商業高校卒業。阪急百貨店販売促進部に勤務した後、職業訓練、専門学校、高校でのコンピューターグラフィックス講師を経て、現在はフリーランスイラストレーターとして活躍している。主に土木・建設分野、教材、行政のイラストを幅広く手掛けている。兵庫県出身。
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