2020年4月6日月曜日

【中堅世代】それぞれの建設業・251

子どもが未来を描ける地域をつくる
◇地域のつながりが働く力に◇

 中堅ゼネコンで土木工事の施工管理を務めた経験を持つ藤井結さん(仮名)は、夫の海外赴任に同行して自らのキャリアを中断した。帰国後は仕事に復帰するつもりだったが、赴任先で子どもが生まれ、病気がちだったこともあり次第に余裕が無くなった。海外勤務を終えて帰国し寄る辺ない思いをしていた時に自分を救ってくれたのは、これまであまり顧みることがなかった地域とのつながりだった。藤井さんは再び仕事に戻るという目標を取り戻していった。

 鉄道橋の設計に携わっていた父親の影響で、生活の基礎を支える土木の世界に興味を持った。父親が設計に加わった橋を家族で見に行き「縁の下の力持ちみたいで格好いい」と現場に関わる思いを強くした。

 縁あって入社した会社で土木設計部に配属され、基礎構造物や橋梁の設計を4年間担当した。折に触れて上司や周囲の仲間に現場希望をアピール。5年目に道路橋建設工事の施工管理に従事することになった。自分が判断しなければ仕事が進まない。厳しい状況に直面するたび必死に乗り切っていった。毎日新しいことが始まるのは刺激的で楽しく、やりがいを感じた。

 3年の期間限定で夫の海外赴任が決まったのは、担当する工事が終盤に入った頃だった。仕事が面白く同行をためらった直後に妊娠が分かった。頼れる家族がおらず、心を残しながら退職を決めた。

 日本に戻ってきてからは、入退院を繰り返す子どもにかかりきりで、自分のことは後回しだった。仕事に戻りたい思いは強かったが、子どもが頼れる存在は自分たちだけ。気心が知れた友人がいない場所での子育ては本当に孤独だった。そんな時、市役所で勧められ、地域の人をつなぐ「子ども食堂」に足を運んだ。いわゆる貧困家庭や一人親家庭の子どもたちだけでなく、育児中の親子や高齢者、外国人などさまざまな人たちと食卓を囲むと、自然に地域とのつながりが深まった。

 シングルマザーや外国人など境遇が異なる人たちとの出会いは「育児の悩みを話せて気が楽になった」。藤井さんの子どもは祖父母のような年回りのご近所さんと一緒に、和気あいあいと食卓を囲んでいる。子ども食堂はいつしか藤井さん親子の居場所になった。

 1月上旬、子ども食堂の仲間たちと「手前みそ」を仕込んだ。ゆでた大豆をつぶしたり大豆とこうじを混ぜたりと、一つ一つの工程を協力しながらこなしていく。仕事で感じた面白さと同じだと気付いた。みそやしょうゆは和食の味つけには欠かせない、私たちの生活を支えるインフラ「縁の下の力持ち」だ。

 ハードとソフトがそろってこそ、安心して暮らせる。建設業はその土台となる基盤の役割を担う。子どもを授かり、さまざまな人たちと知り合ったことで「子どもが未来を描ける地域をつくるのは大人の役目」だと強く感じた。わが子に誇れる仕事がしたいとも。資格取得の勉強を始めた。いつか現場で働くため、今は力を蓄えている。

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