建設業のやりがいの一つは、関係者が一丸になって仕事と向き合えること |
「みんなが一丸となって大規模インフラを完成させる達成感は何物にも代え難い」。大手ゼネコンに勤務し地方支店を統括する立場にある川崎幸彦さん(仮名)は、現場に出始めたころから抱く思いを打ち明ける。
もともと大規模な構造物が好きで土木系の大学院を修了後、今の仕事を選択した。高速道路や橋梁などのインフラ整備に携わり勤続年数は30年を超える。ここまで自分が頑張れたのは若手時代の経験があればこそだ。
時にはつらいこともあった。右も左も分からない駆け出しのころ、ものづくりに強い思いを持った先輩技術者に、強い口調で叱責(しっせき)されることもしばしばだった。心が折れそうになることもあったが、自分を奮い立たせて仕事への向き合い方や職人との接し方をがむしゃらに学んだ。
仕事が終われば先輩たちと朝まで飲みに行って本音を打ち明け合い、「誰もが誇りを持って作業していることが分かった」。仕事と正面から向き合うきっかけになった。昼夜を問わず仕事に励む自分を「仕事が趣味」と笑いながら話す。
働き始めて十数年が経過し、技術者として独り立ちできるようになった頃、世間の空気ががらりと変わった。仕事よりもプライベートを重視する考えが定着し、会社も働き方改革の取り組みを加速している。
当時の先輩たちはほとんどが引退し、自分の周りには年下の部下や後輩たちが多くなった。若手の意識は大きく変化。残業を命じたり飲み会に誘ったりすることに戸惑いを感じるようになった。厳しく接すれば仕事を辞めてしまう。一心不乱に仕事と向き合ってきた自分とは異なる価値観。心に迷いが渦巻く。
今の立場では、年上の技術者に指導することもある。彼らは若手に対して「最近の若い者はなっていない」と説教しがちだ。昔の考え方が抜け切らない口ぶりに共感を覚えながらも、人手不足に悩む建設業にとって後進の育成は不可欠な課題と考える。
「これも時代の変化」と受け止め、若い人たちに受け入れられる業界となるように努力の日々を続けている。支店ではフレックスタイムの導入や工事書類の簡素化などを推進し、働きやすい職場づくりに腐心してきた。そのおかげか、このところ少しずつ時間に余裕がでてきた。「働き方改革も悪くないな」。家庭内で凝った料理を振る舞うなど、以前の自分からは考えられない変化を感じている。
それでも常に考えるのは仕事のこと。若手の時は目の前の作業で手いっぱいだったが、今は案件を受注する戦略や働き方改革の拡充など幅広い仕事にやりがいを感じている。休日でも会社が施工する建設現場を見るために車のハンドルを握る。仕事は変わっても「仕事好きは相変わらずだ」と苦笑する。
定年まであとわずか。仕事の終わりが見えてきた中で、できることは多くない。若手に建設業の魅力を伝えることが、自分の責務と考えている。「仕事への価値観は違っても、ものづくりのやりがいは共有できるはず」。強い思いを胸に秘め今日も後進育成に励む。
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