公共投資の水準をめぐる議論の中で、道路のネットワーク効果にあらためて注目が集まっている。東京~青森間を高速道路で移動する場合のルートは、現在24ルート(11年3月末時点)にとどまるが、高規格幹線道路網1万4000キロが整備された場合は1万4240ルートに増える。災害時の代替機能に加え、労働生産性の向上、青果や医療機器の搬送ルートの多様化など平常時にもさまざまな効果が期待される。
大石久和国土政策研究所長は「短区間のB/C(費用対効果)に追い立てられたのは過去の道路行政の失敗だ」と指摘する。
東京~青森の高速道路の供用延長は11年3月末時点で2523キロ。計画ベースの75%に達している。100%の3361キロに到達させるには、あと838キロの整備が必要になるが、この残り25%を増やすことで、最も一般的な東北自動車道を使うルートに加え、太平洋沿岸、日本海沿岸を通る選択肢が追加され、選択可能なルートは約600倍に増えるという。
同様に大阪~鹿児島間の移動では、11年3月末時点の高速道路の選択肢は20ルート(供用延長2870キロ、計画ベースの77%)だが、100%に向けてあと861キロの整備を行えば、1万2600ルート(約630倍)に増加する。
東北北部のほぼ中央、青森、岩手、秋田の主要都市に直線で150キロの位置にある秋田県大館市。青果物の加工・流通・販売を手掛けるフレッシュシステム(東京都千代田区)は6年前、ここに加工拠点を構えた。輸入品のバナナなどを食べごろに熟成させ、約2時間で主要商圏に出荷する。
大館市では、日本海沿岸東北自動車道大館北インターチェンジ(IC)~東北道小坂ジャンクション(JCT)間の延長16・1キロが13年11月に開通したのを契機に、12年以降、工場立地が活発化。国土交通省が確認しただけで27工場が立地し、206億円の設備投資が創出されたという。
現地では、高速道路のネットワーク効果が、熟成前の緑色のバナナを輸入・運搬し、熟成した上で鮮度の高いバナナを店頭に並べる「バナナ革命」としてPRされている。さらに大館市からは、東北道を通って関東へ、日本海側を関西へと、それぞれの利便性が高まり、医療機器の搬送ルートも拡大。国交省の幹部は「道路ネットワークの重心として、バナナ革命に加え、いのちをつなぐ効果が出ている」と強調する。
道路整備、特に有料道路の整備をめぐってはこれまで、短区間の収益性を重視した議論が交わされた経緯がある。現在は、移動時間の短縮に伴う労働生産性の向上とともに、ネットワーク効果の重要性が認知されつつある。「途切れない道路ネットワークを造ることの重要性を分かっていただきたい」と大石所長。ネットワーク化とともに、高規格幹線道路網1万4000キロの行方がもっと注目されてもよさそうだ。
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