建設会社で土木営業を担当する植田憲次さん(仮名)。プロジェクトを受注するための戦略づくりや提案業務などに追われる日々だ。「会社全体が一丸となって工事の受注に取り組める入札契約システムの普及拡大には大賛成だ」と話す。
公共工事の受注環境はこの10年余りで大きく変わり、建設会社の営業戦略もそうした変化に対応できるように見直されてきた。変化の一つが、公共工事の入札で価格だけでなく、企業の技術提案も含めて落札者を決める総合評価方式の普及だ。
発注機関が総合評価方式の採用を拡大する動きに合わせ、建設業界では技術面での他社との差別化をより強く意識するようになった。
技術提案で高い評価を得ようと、各社が本来求められる性能・品質をはるかに超えた技術や工法、環境対策を提案することも少なくない。こうしたオーバースペックの提案は、企業側にとってはコスト負担が増し、提案資料を作成するための業務量も増大する。
それを総合評価方式のマイナス効果と指摘する声も強いが、植田さんは「例えば数十億円の工事を取るため、技術提案に経費をかけたり、人手を割いたりするのは当たり前のこと。他産業では技術開発や生産ラインへの設備投資など、稼ぐためには膨大な人材と資金を投じている。建設業もこの程度で弱音を吐いてはいられない」と意に介さない。
一方で、「発注者にも入札契約システムを最善、最適なものに改善・改良する責務がある」とも。植田さんが課題の一つに挙げるのは、技術を提案する企業側と審査する発注者側との「コミュニケーション不足」。官製談合事件などを受けて発注機関のコンプライアンス(法令順守)の取り組みが強化され、発注側の担当者が関連業者との接触を必要以上に避けるようになってきたからだ。
「受・発注者の関係は希薄化する一方だ」と植田さん。より良いものを工期内に安全に造るためには、「発注者と建設業者の間で技術提案の内容を十分に議論できる場を設ける必要がある」と考えている。
ここにきて建設業界では、働く人の確保・育成に向けた取り組みが活発化し、発注者が若手や女性技術者を活用する企業を評価する動きも目立ってきた。総論では賛成の立場を取る植田さんだが、発注者の対応には不満もある。
「若手や女性職員を現場に配置することで、これまでは必要のなかったコストが発生する。建設業界の人材の確保・育成を政策目標に掲げるなら、発注者がそのコストも負担するという対応策をきちんと明示してほしい」。
「受注量が増えているとはいえ、いまの利益水準ではいずれ社員の給料も十分に払えなくなる。このままでは受注者側の我慢比べが続き、建設業界から人が離れていってしまう」。時々そんな不安に襲われる。
公共事業の入札契約制度改革がより良い方向に進み、民間事業も含めた建設市場に本当の意味で明るさが取り戻せるよう願う毎日だ。
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