2014年11月17日月曜日

中堅世代-それぞれの建設業・73/土木リニューアルの可能性を信じて

 東川達之(仮名)さんは、建設会社で土木構造物のリニューアル事業に関わる専門部署に配属されて10年以上がたつ。既存インフラの老朽化が進み、更新需要は高まっている。しかし東川さんは「手間がかかり、利益が薄いリニューアル事業の会社への貢献度はまだまだ低い」と冷静に分析する。
 建設会社にとって主流のビジネスモデルは、依然として新設工事。リニューアル工事で稼ぐ難しさを痛感している。最近は震災復興事業や経済対策による公共事業の増加も影響し、会社からは「リニューアルの仕事をやるならもうかるものにしろ」と言われる日々が続く。それでも「リニューアルが将来のわが社はもちろん、日本の社会・経済を支える重要な仕事になる」との信念は揺るがない。
 大学で土木工学を専攻し、20年以上前に土木を主力事業にする現在の会社に入った。最初は臨海部の現場を中心に経験を積んだ。一時期、外部の研究機関に出向し、研究員として他の技術者らとの交流を深めた。その後、本社の設計本部に戻って間もなく、阪神大震災が発生。先輩の指導を受けながら、被災した岸壁などの復旧・復興工事の設計業務をいきなり任された。
 「厳しい状況下で苦労はしたが、設計の側から現場を見られたのはいい経験になった。今のリニューアルの仕事にも生かされている」と当時を振り返る。
 調査・診断から具体的な対策の提案、工事の実施、維持管理の支援といった川上から川下まで一貫して構造物に関わるリニューアル事業では、多様で総合的な能力が求められる。
 さまざまな職場経験を持つ東川さんのキャリアに会社幹部も目を付け、新設間もない土木リニューアルの専門部署への異動を命じた。
 当時は、新設の建設投資が先細りし、従来のビジネスモデルには限界が来ると感じていた。異動前の幹部との面談では、メンテナンス市場で事業を拡大する重要性を説き、「これまで以上にリニューアル事業に力を入れるべきだ」と熱弁を振るった。
 東日本大震災や中央自動車道笹子トンネルの天井板崩落事故など、社会全体がインフラの価値を見つめ直す出来事を経て、幹部に伝えた当時の言葉に間違いはなかったと確信している。
 それだけに、リニューアル事業に対する会社側の対応には不満を感じている。事業量の増加で全社的に人材が不足し、土木リニューアル部門の人員増強の要求は認められない。それどころか、今いる人材を引き抜かれる始末だ。
 にわかに増えた今の仕事を消化してしまえば、その後はリニューアルなど既設インフラの老朽化対応が建設会社の主戦場の一つになることは確実だ。にもかかわらず、経営戦略上のリニューアル事業の位置付けが「総論賛成、各論不透明」という中途半端な状況にあることがもどかしい。
 リニューアル分野の人材育成には戦略的に取り組む必要がある。東川さんは体制強化の必要性を今後も幹部に訴え続けるつもりだ。
 「土木リニューアル分野に東川あり」。社内外でそう認められる存在になる夢を抱く。自身の後継者も育てたい。現実とのギャップにもがきながらも、リニューアル事業の可能性を信じ続ける。

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