2018年7月3日火曜日

【駆け出しのころ】松尾建設執行役員土木営業技術本部長・片渕賢治氏

 ◇これからも伝え続けること◇

 実家が農家だったこともあり、学生の頃から自分には外で働く仕事が合っていると考えていました。就職したらどこへでも転勤するつもりでいたものの、いずれは親のいる故郷に戻って来られたらという思いもあり、佐賀県に本社を構える松尾建設に入社しました。

 最初に配属されたのは、立体交差道路を造る現場です。着任して間もないある日、工事用道路の測量を行っていると、通学中の小学生が「おじちゃん、何しよっと?」と佐賀弁で話し掛けてきたことがありました。「お兄ちゃん」ではなく「おじちゃん」と呼ばれたことに、自分も社会人になったんだと実感したのを覚えています。

 この現場に3年間携わりましたが、1年目の年末に今でも強く印象に残っている出来事がありました。建設中の橋脚1本だけ位置が間違っていると分かったのです。既に途中までコンクリートの打設が終わっている段階でした。それまでに設計が何度か変更されてきたという事情もあったのですが、結局は確認を十分に行っていなかったことが原因でした。

 こんな大変な事態にどう対応していくのか心配でたまらないでいると、作業所長は「会社の信用を無くすわけにはいかない」とすぐに壊して造り直すことを決めます。そうして発注者の了承を得た上で、造りかけの橋脚を撤去する工事に入り、大みそかも夜通しで作業に当たりました。間違ってしまったからには責任を持って誠実に対応する。こうした会社の姿勢を学べたのは大変に貴重な経験となりました。

 私たちが若いころ、例えば小さなミスなら「そのくらいのことは報告して来なくていいから自分で解決しろ」と上司から言われたものですが、今はそういう時代ではありません。まずは報告することが決まりになっています。でも、これがもし「報告さえすればいい」という考え方になってしまうと、自ら解決するための勉強をしなくなってしまうのではないかと心配しています。

 複雑に考え過ぎる必要はありません。若い人たちには、自分で問題の本質は何であるのかを一度考え、それでも分からない時には堂々と「分かりません」と言ってほしいと思います。これは上司や先輩に何らかの相談をする時も同じです。

 かつて橋脚を造り直した現場で、新人の私も責任を感じて主任に「現場が終わったら会社を辞めます」と話したことがありました。この時、主任から掛けられたのは「この現場で起きた間違いをずっと伝えていってほしい。それが会社の財産になる」という言葉でした。だから、私はこれからも新入社員研修などで必ずこの話をしていきます。

 (かたふち・けんじ)1981年福岡大学工学部土木工学科卒、松尾建設入社。佐賀支店土木工事部工事課主任、工事本部土木部作業所長代理、東京支店土木課作業所長代理、土木営業技術本部土木営業部統括(部長格)、理事土木営業技術本部長などを経て、11年6月から現職。佐賀県出身、59歳。
大阪支店勤務時代に家族でドライブに出かけた先で

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