コンテナの積み替えハブ港として世界有数の取扱量を誇るシンガポール港で、大規模プロジェクトが進行中だ。
シンガポール政府が進めるトゥアスコンテナターミナル(CT)建設プロジェクトは、現在のコンテナターミナルの全機能を将来的にトゥアス地区に移転・集約する。
その工事の一つ、2015年3月にスタートした第2CT(TTP1)建設事業に伴う浚渫で、小島組(名古屋市港区)が所有する世界最大のグラブ浚渫船「五祥」が稼働している。床掘り浚渫の最大水深は45m、グラブ浚渫量は計4100万m3に上る。6月の完了に向け工事がヤマ場を迎えている現場を訪れた。
◇世界最大のグラブ浚渫船「五祥」が活躍◇
トゥアスCT建設プロジェクトは、ケッペル、ブラニ、タンジョンパガーの3ターミナルで構成する「シティターミナル」と、シティターミナルから西に約10キロ離れた「パシルパンジャンターミナル」の全機能を、シンガポール最西端のトゥアス地区に移転・集約する。まず27年までにシティターミナルの機能を移転し、40年ごろにすべての移転が完了する長期的なプロジェクトだ。1万8000TEU型の超大型コンテナ船にも対応し、完成後の年間コンテナ取扱量は現在の5000万TEUから6500万TEUにアップする。
シンガポール海事港湾庁が発注したトゥアス第2CT(TTP1)建設事業は、ベルギーに本社を置くゼネコンの現地法人DIAP(Dredging International Asia Pacific)と韓国DAELIMのJVが受注した。
DIAP社の要請を受けた小島組は最大水深45メートルの床掘り浚渫、目標水深23メートルの航路浚渫と泊地浚渫を行うため五祥(グラブ容量200立方メートル)、第661良成丸(56立方メートル)、最新鋭ハイブリッド船の第381良成丸(23立方メートル)の3隻のグラブ浚渫船を投入。DIAP社にリースするとともに、技術支援として監督をはじめとした人員を派遣している。
外国人オペレーターの教育、DIAP社に対しての施工計画の改善提案、24時間・通年稼働する機械の管理、消耗・摩耗部品の迅速な調達など、作業の効率化と円滑な施工を実現するため、確かなバックアップ体制で顧客の要求に応えている。
施工管理にも重点を置く。3隻のグラブ浚渫船には「浚渫施工管理システム」を設置。RTK(リアルタイムキネマテック)GPS(衛星利用測位システム)とサテライトコンパス(GPSコンパス)で、グラブ船を指定作業エリアへ誘導し船の向きを正確に把握、施工位置を確定する。
浚渫の施工状況は超音波探査で確認できる。自重370トン、容量200立方メートルのグラブバケットを備える五祥には、水中のグラブの方向と位置、前後左右の傾き、深度をモニターで視認できる「グラブバケット水中測位装置」を設置。水深45メートルの大深度浚渫でも、ほぼ1回の掘削で出来形を確保できるようにしている。
◇24時間、通年稼働に対応◇
日本国内の事業と海外プロジェクトでは、規模もそうだが、やはり24時間稼働という点が大きく異なるという。同社の現地法人で、DIAP社との連絡調整や支援技術者のサポートを行っている加古和弘さんは「五祥は特殊な油圧装置でグラブを開閉するが、部品の消耗スピードがとにかく早い。部品の在庫を抱えるのはリスクだが状況を見極め、メーカーの協力も仰ぎながら調達している」と話す。
このため、こまめな点検整備も欠かせない。五祥では現在、それぞれ約10人が昼夜の2交代制で作業を行っている。国内であれば作業の開始前や終了後に点検整備が可能だが、24時間稼働の同現場では、土運搬船の付け替え時にグラブバケットへの給脂作業やグラブバケットワイヤの点検を短時間で行うなど工夫を凝らして実施。点検整備は外国人作業員が行うため、英語の作業船整備マニュアルを作成し情報共有を図っている。
同社は今後の事業展開を見据え、10年ほど前に海外事業部を設置。海外での仕事に興味がある人材など、さまざまなルートで人材を確保し、若手の育成に力を入れている。今回のプロジェクトでも、第381良成丸には30~40代の若手を中心に人員を配置し、経験を積ませた。
作業を円滑に進めるためには外国人作業員とのコミュニケーションづくり、信頼関係の構築が不可欠だが、文化や考え方が違う相手の信頼を得ることは並大抵のことではない。そのため、海外の現場で鍛えられると日本にいるよりも確実に成長が早いという。近年はインドネシアやフィリピンなどアジアの港湾インフラ開発が活発で、同社が活躍するチャンスが広がっている。トゥアスCT建設プロジェクトは、同社の将来を担う若手の教育現場でもある。
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