2019年2月4日月曜日

【中堅世代】それぞれの建設業・220

初めて足場を歩いた時、その高さに足が震えた。
職人が仕事を通じて見ている景色を伝えたいと思った
 ◇生き生き働く職人の姿をありのままに◇
 「現場で働く職人はとても生き生きしていてかっこいい。それをどう伝えればいいんだろう」。建設会社で働く天野邦子さん(仮名)は日々、「職人の魅力の伝え方」を模索している。入社以来、約20年にわたって協力会社との契約などに携わっているが、ここ数年は協力会社の入職支援も担当するようになった。仕事を通じて現場に行く機会も増え、職人の魅力に引かれるようになったという。

 まず最初に驚いたのは現場で働く姿と現場から一歩出た後のギャップだった。ある職人に書類を渡すため、現場事務所で待っていたときのこと。待っている間に一人の若い職人が現場から戻り、私服に着替えて出て行った。リュックサックを背負い、パーカを着てキャップをかぶった姿は今どきの大学生そのもの。「こんな若い男の子が、現場ではプロの顔つきになるんだ」と感心した。

 女性活躍の機運が高まると、女性の職人と接点を持つ機会も増えた。入職支援の一環として建設業で働く女性の座談会を企画した際に、シングルマザーというある左官の女性と知り合った。

 現場でのエピソード、失敗談、やりがいなどについて話す彼女は生き生きとして魅力的だった。「現場のトイレはきれいですか?」という質問に対しては、「本当のところ、外部の人が見学に来るような現場はきれいにしているけど、きれいじゃない現場もあるよ」と笑いながら答えていた。彼女の一言でその場の空気がほぐれた。現場でもムードメーカーとなり、そつなく仕事を回している様子が目に浮かんだ。

 後日開催された左官職人の入職イベントで、座談会に参加していた女子学生を見かけた。「彼女も左官の女性の話を聞いて、仕事に魅力を感じたのだろうか」。誰かの進路を決めるきっかけづくりができたのかもしれないと思うと自信がついた。入職支援の仕事にやりがいを感じ、現場で日々奮闘する「彼ら、彼女らの魅力をもっと多くの人に伝えたい」と思うようになった。

 協力会社の入職支援では、幅広い人に協力会社の仕事を知ってもらうため、紙のパンフレットだけでなく動画製作など、あらゆる面から職人を紹介するアプローチを模索している。

 協力会社との契約業務がメインだった時はほとんど足を踏み入れる機会がなかった現場にも、コンテンツを充実させるため、取材で訪れる機会が増えた。初めて足場を歩いた時は足場から下が透けて見え、恐怖で足が震えた。「職人が日々、どんな風景を見ながら仕事をしているのか、もっと知らなくてはならない」と強く思った。

 若い世代に興味を持ってもらえるよう、ウエブコンテンツの充実にも取り組む。職人の仕事を説明する言葉やキャッチコピー、挿絵などを選ぶ時は、常に「かっこいいもの」「魅力的なもの」を意識している。小中学生らを対象とした現場見学会で職人の仕事を紹介するパンフレットを配布したり、動画を流したりした際に「分かりやすかった」という声が聞こえると、報われた気持ちになる。

 職人から見ても「いいできだ」と満足してもらえるコンテンツをつくりたい-。よりリアルな職人像を若い人に届けるのが今の目標だ。

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