2020年8月4日火曜日

【超高層ビルの足下に巨大ガラス屋根】新宿住友ビル大規模改修(東京都新宿区)

 ◇国内最大級の全天候型アトリウム誕生◇

 住友不動産が進めていた東京・西新宿の「新宿住友ビル」の大規模改修工事が6月に完了し、超高層ビルの足元に巨大なガラス屋根で覆われた広場が誕生した。西新宿に活気をもたらすためにおよそ20年間構想を練り上げ大規模改修を実行。ビルの完成からおよそ半世紀を迎えた通称「三角ビル」が、装いも新たに生まれ変わった。

 「建て替えはまったく考えていなかった」。住友不の宮川享之ビル事業本部新宿事業所長はビルへの思い入れをこう話す。大切にしたのは、既存のビルへの「リスペクト」。先人たちの努力の結晶であるビルの趣をそのままに、「別のビルに間違えられるような」事業を目指した。

 新宿住友ビルは1974年に竣工した。完成当時は国内最高の高さ211メートルを誇り、三角形の屋根が特徴的な西新宿を象徴するビルとして注目された。91年に東京都庁が開庁すると西新宿エリアはオフィス街として変貌を遂げた。一方で商業施設が集積しにぎわう新宿駅東側とは対照的に、週末になると「静かな街並み」(宮川所長)が広がっていた。

 西新宿を活性化させるため、住友不が企画したのが全天候型アトリウムだった。一般的な公開空地と同様明るく開放的で、天候に左右されることなく人が集える空間の整備を計画した。

 設計に携わった日建設計の芦田智之執行役員設計部門グループマネージャーアーキテクトは、「なかなかプロジェクトが進まなかった」と語る。かつては外の空間とつながっている「物理的開放性」を持つのが公開空地という概念があり、アトリウムを実現する法令が整っていなかった。

 屋根だけ架けて外気を取り入れるといったさまざまな案を提示するものの、芦田執行役員は「住友不は決して『うん』とは言わなかった」と振り返る。何回もやりとりを繰り返すうち、「無理かなとも思った」と当時の心情を吐露する。

 議論が暗礁に乗り上げる中、社会情勢が変化し「住友不のゴールに近づいてきた」(芦田執行役員)。東日本大震災などを機に、災害時の避難機能を公開空地に求める動きが強まった。屋内アトリウムは雨や風をしのぐことができる。整備に向けた道筋が見えてきた瞬間だった。

 法改正で既存不適格となった建物の段階的な改善を認める「全体計画認定制度」の制定も追い風となった。通常、竣工時にすべて不適格部分を改善しなければならないが、同制度によって事業計画の検討の幅が広がった。

 施工を手掛けた大成建設も加わって議論を交わし、一つ一つ課題をクリアしていった。2016年12月に国家戦略特別区域、17年8月には民間都市再生事業計画の認定を受け、事業は具体化に向け一気に前進。同9月に着工を迎えた。

 工事を指揮した大成建設の山田繁満作業所長は「ビルの利用者への配慮」を苦労した点に挙げる。アトリウムの新築にとどまらず、既存建物の解体や改修も実施した。1日約1万人が行き交うビルで、騒音や粉じんの発生に気を配るのは「相当大変だった」と語る。

 アトリウムで使用したガラスは延べ約1万平方メートル、計5288枚に上った。ガラスのサイズや傾斜がそれぞれ異なるため、一つ一つ慎重に取り付けを進めた。内装の改修の中には、工事期間中にテナントの移転が必要になったケースがあり、「テナントの協力なくして、完成できなかった」と山田所長は謝意を示す。

プロジェクトに関わった(左から)山田所長、宮川所長、芦田執行役員
工事最盛期には昼夜で2000人が工事作業に当たった。協力会社らとの信頼関係の構築のため「冗談を交えながら、現場で積極的にコミュニケーションを重ねた」という。一方、朝礼での連絡事項は緊張の糸が切れないよう「簡潔に分かりやすく伝える」ことを心掛けた。入念な工事の進捗(しんちょく)状況の確認のため、関係者とのミーティングは、1週間当たり最大20回以上に及んだ。

 7月1日に開業した三角広場は、約2000人を収容する国内最大級の全天候型イベント空間となった。制振補強によってビルの耐震性能が向上。地下のホールを拡充させ、商業エリアも改装で一新した。

 「住友不動産を代表するビル。みんなが愛している」と宮川所長はビルへの思い入れを話す。「100年に向けた折り返し地点で、第2の竣工を迎えられた」と喜びを語る。

 《工事概要》

 【工事場所】      東京都新宿区西新宿2の6の1
 
 【基本構想・総合監修】 住友不動産

 【設計・監理】     日建設計、大成建設

 【施工者】       大成建設

 【工期】        2017年9月30日~20年6月30日

 【規模】        地下4階地上54階塔屋3階建て延べ18万0195㎡

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