2020年8月24日月曜日

【駆け出しのころ】鹿島常務執行役員技術研究所長・福田孝晴氏

 ◇何事も基本を正しく理解◇

  高校1年の夏休み、東京へ遊びに行った際、前年に完成した西新宿の京王プラザホテルのほか、周囲で施工中の超高層ビルの現場を見ました。その力強い骨組みに魅了されたのを今でも覚えています。

 大学では構造力学を学び、新宿の超高層ビルを数多く施工していた鹿島に入社。配属先の設計部門は思い出の場所である西新宿に当時ありました。

 最初の仕事は広島にある竹原火力発電所の貯炭施設。既に設計を終えて施工中だった施設の解析業務を任されました。直径124メートルのドーム屋根を架ける大スパンの構造物を経験し、構造設計の面白みを感じることができました。

 入社3年目に自分がメインで構造設計を担当した劇団四季のキャッツ・シアターも思い出深い仕事の一つ。西新宿の一画に、テント屋根の仮設構造物の劇場を約1カ月の短工期で建設しました。初演の20日ほど前には、その年一番の強い台風が西日本に上陸。通常の建物同様の風荷重で設計していましたが、心配になって現場に行くと、テントが強風で大きくはためく様子が劇場の屋根裏から見えました。台風や地震など厳しい自然が相手の構造設計を担う者として、責任と覚悟を持って取り組まなければと強く思いました。

 4年目には海外案件の設計グループに移り、マレーシアの銀行から設計・施工で受注した20階建ての長期滞在型アパートを担当しました。設計基準は英国のブリティッシュ・スタンダード(BS)のため、英語表記の参考書などで一から勉強の毎日。もともと英語は苦手でしたが、英会話など語学のスキルアップにも自分で工夫しながら取り組みました。

 設計図書の作成後、現場に赴任して設計監理を担当したこともいい経験になりました。ただ、現地の経済環境が悪化し、施工途中で現場がストップ。完成した建物を見ることなく帰国したのは残念でなりません。

 続いて、中国・上海で米国企業が進める総延べ18・5万平方メートル規模の複合開発事業に携わりました。今度は米国の設計法を勉強することになりましたが、BSの知識が役立ちました。各国で表現の仕方などは異なっても本質は変わらず、何事も基本を正しく理解する大切さを学びました。

 少し離れて全体を見ることで、物事がどのように釣り合っているかが把握でき、本質もより良く理解できます。大学時代に学んだことが仕事を通して身に付いていくのが実感できました。

 若い人たちには、何事にも前向きに取り組む「キュリオシティ(好奇心)」、顧客にとって最適なものを見定める「コストマインド」、新しいことに挑戦する「チャレンジスピリット」の三つのCを大事にしてもらいたい。出会いやチャンスを大切に積み重ね、自らを磨き上げてほしいです。

入社5年目、マレーシアの建設現場で(右端が本人)
 (ふくだ・たかはる)1981年京都大学工学部建築学科修士課程修了、鹿島入社。執行役員建築設計本部副本部長、同技術研究所長(現任)などを経て2018年4月から現職。山口県出身、64歳。

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