藤沢周平の小説に『驟(はし)り雨』というのがある。驟り雨は夕立のこと。さっと降ってさっとやむので、こんな表現を用いたのだろう▼夕立は暑い夏の午後、天地の色が一瞬にして陰り突如やってくる。数十分でやむので早雨や通り雨とも呼ばれる。肘で頭を覆い、雨をしのぐ人もいるので「肘傘雨」という呼び名もある。突然の雨も肘傘雨と言われると、どこか風情がある▼その夕立が最近、凶暴化している。呼び名もゲリラ豪雨などと言われ、稲妻とともに激しく地面をたたき付ける雨音は相次ぐ豪雨災害を連想させ、不安をかき立てる▼気象庁は夕立やゲリラ豪雨という表現を基本的に使わない。夕立は文学的な印象があり、受け止め側のイメージが異なるため、使わないそうだ。ゲリラ豪雨は局地的豪雨や局地的な大雨と言い、分かりやすい表現に代えているという▼藤沢の小説『驟り雨』では昼は真面目に働き、夜は盗賊となる主人公が、夕方雨宿りした場所で偶然会った人たちと触れ合い、盗賊をやめ改心する。驟り雨がそんな機会を与えたという話だ。短時間に数十ミリも降るゲリラ豪雨ではそんな人情話は生まれない。
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