◇知見生かし存在感高める◇
日本工営の海外子会社で英国に拠点を置く建築設計会社のBDP(マンチェスター)が、事業規模の拡大に向けた動きを強めている。7月1日付で就任したニック・ファルハム最高経営責任者(CEO)は、これまでの大規模建築プロジェクトで得た知見などを生かし「BDPの存在感を高める」ことを経営戦略の重要項目に掲げる。日本工営との連携を深め、土木と建築が融合した都市開発プロジェクトで攻勢を掛ける。
--BDPの強みは。
「ウエストミンスター宮殿(ロンドン、1903年竣工)の大規模改修など規模が大きく、非常に複雑なプロジェクトに対応している。各スタジオを通じて地元の知識と理解を得ながらサービスを提供している。創業から60年がたち、世界をより住みやすい環境にするのが使命と捉えている。早い段階で業務に最新技術を取り入れてきた。例えば仮想空間に設計デザインを表現した没入型3D環境を構築し、顧客からの要望を設計プロセスに反映している」
「新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)で通信環境は飛躍的に向上した。建築や都市計画を取り巻く市場は拡大傾向にある。豊富な専門知識を持った当社の社員が国内外で活動し地域に根差した提案をすることで、競合他社との差別化を図っている」
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ウエストミンスター宮殿の大規模改修で設計を手掛けた(BDP提供) |
--注力分野は。
「シンガポールとニューデリー、上海の各拠点を軸に交通インフラや公共交通指向型開発(TOD)で収益拡大を狙う。蓄積した知見を生かし日本工営や現地法人とも連携し、スマートシティーにも力を注ぐ。当社は英国内でもいち早く設計業務にBIMを活用した。直近で手掛けた製薬大手・アストラゼネカのグローバル本社(ケンブリッジ)などは好事例だ。BIMの情報を工事関係者と共有し、多くの部材をプレキャスト(PCa)化したり無駄なコストを抑えたりして工期短縮を実現した」
--市場開拓をどう進める。
「カナダに拠点を置く建築設計会社のクアドラングル(トロント)を傘下に収め、2020年11月からBDP-クアドラングルとして運営している。200人以上のスタッフが在籍し、住宅や店舗などで強みを生かしている。デジタルコンテンツの急成長を理由にスタジオや編集スタジオの需要が増加している。北米を中心にサービスを提供し、当社のブランドと存在感を高めたい」
「7月には大規模なスタジアム建築を得意とする英パターン・デザインを買収した。パターン社は22年のサッカーワールドカップ(W杯)カタール大会で使用するアフマド・ビン・アリ・スタジアムなど2施設の設計を手掛けている。イングランドプレミアリーグのエバートンFCが計画している新スタジアムにも携わっている。スタジアムの複雑な構造を理解し、地域社会に対して永続的で良いレガシー(遺産)を提供するには、高度な専門知識が必要だ。当社とパターン社は国際的なネットワークやスタジアム設計の専門知識を持っている。需要増が見込めるスポーツ施設やeスポーツ競技場で強みを発揮する」
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アフマド・ビン・アリ・スタジアムはカタールW杯の試合会場になる(BDP提供) |
--日本工営とのシナジー(相乗効果)をどう最大化する。 「日本工営の経営理念や組織力、世界を網羅するエンジニアリングサービスとのシナジーを期待している。東南アジア諸国連合(ASEAN)地域で都市化が急速に進行している。既に両社はアジア地域でのマスタープランづくりを手掛けている。住みやすい都市にするには何が必要か、意識を共有できている」
「ショッピングセンターや住宅などが入居するリバプール・ワンは、王立英国建築家協会(RIBA)のスターリング賞にノミネートされた。この複合施設の開発を通じ、市内中心部の再生に貢献した。インドネシアのパティンバン港開発事業では、グリーンインフラを中心としたマスタープランを策定した。物流やレジャーを中心とした活気ある都市が具現化できた。今後も当社と日本工営は持続可能な都市の実現に向け大規模な都市デザイン、インフラ・エネルギープロジェクトで価値を提供していく」。
《会社概要》
1961年に設立。歴史的建造物や複合施設、オフィスの設計などを得意とする。社員数は7月末時点で1295人。20年度の売上高は約180億円で英国トップクラス。16年に日本工営の傘下に入り、土木・建築一体のインフラ整備や都市開発で受注拡大を狙う。