東京スカイツリーのお膝元、東京・押上にある一風変わったカフェが人気になっている。
建築現場をコンセプトにした「現場喫茶」は、防水工事や外壁塗装などを手掛ける高橋工業(東京都墨田区、高橋力代表取締役)が運営する。建設会社ならではのこだわりを内外装のデザインやメニューに落とし込んでいる。カフェにとどまらず社員の副業を後押しし、SNS(インターネット交流サイト)で集客スキルを身に付けさせるなど独自の取り組みを展開する。
2020年2月にオープンした現場喫茶は、都営浅草線の押上駅から徒歩5分、東京スカイツリー(東京都墨田区)の近接地にある。近所の会社に勤める人たちや工事現場の作業員らが訪れる。
店舗のモチーフは建築現場。塗りかけの壁のような外装が印象的で、店内も作業灯を束ねたシャンデリア、仮設足場用のパイプでできた棚などが並ぶ。壁面に店舗の設計図が描かれ、工具やヘルメットも飾られている。武骨な感じだが考えられたデザイン性でおしゃれにまとまっている。仕掛け人は同社の菊池和貴本部長。もともとは会社のショールームを企画していたが「『営業っぽさ』をなくし、足を踏み入れやすい雰囲気を出そうとしたら喫茶店に行き着いた」と明かす。壁面のモニターで防水や塗装などの技術を紹介する映像を流し、「長い時間滞在し店の中を見て、しっかりと会社を知ってもらいたい」との思いから、ドリンクメニューは2杯目から全品110円(税込み)にした。
目玉メニューは1650円(同)の「現場カレー」。300グラムのライスはボリューム満点で、ひと仕事終えた職人のおなかを満たすのに十分な量だ。カレーは千葉県佐倉市の名店「イル・ピーノ」が提供。スパイシーなルーと柔らかく煮込んだチキンが特徴だ。レモン1・5個分を使い、ジョッキに注がれたレモンスカッシュ(税込み715円)も人気メニューだ。
内外装やメニューは「SNS映えも意識した」と菊池本部長。フェイスブック、ツイッター、インスタグラムで店の情報を積極的に発信している。SNS担当者は「ハッシュタグなどのトレンドを頻繁にチェックし、写真の構図も読者の目に留まりやすいよう気を使っている」と説明する。
地域の街づくり団体などのイベントやセミナーに店舗を貸し出すこともある。催しの冒頭5分、会社を紹介することが条件。「参加者一人一人に会社を知ってもらい、情報を広めるインフルエンサーになってもらう」(SNS担当者)。イベントで知り合った人を通じて仕事を請け負うことも多いという。
同社は全社員が副業を持っている。現場喫茶を副業研修の場として活用。研修内容はホームページ(HP)のデザイン、SNSやブログの収益化、商用写真の売買、動画投稿サイト・ユーチューブの利活用、積み立て「NISA」(少額投資非課税制度)の仕組みなど多岐にわたる。
日給月給制の技能労働者は「より賃金の高い職場(会社)へと移ってしまい、一つの職場にとどまらない方が多い」(菊池本部長)。同社は発想を転換し、稼げる会社になれば職人もとどまると考えた。そこで定着のインセンティブとなるよう、職人の給与に固定給を採用。加えて社員一人一人に副業で稼ぐ力を身に付けてもらおうとしている。採用段階で求めるのは自主的に行動できる人材。面接で金銭感覚や将来の夢を必ず聞くようにしている。採用後は個人で利用しているSNSの投稿数、閲覧数に応じたボーナス(一時金)を設けるなど、自ら発信できる人材を育てる。菊池本部長は「他業種やソーシャルメディアとタッグを組めば、建設業も大きく成長するポテンシャルがある。業界を目指す人を増やしたい」と力を込める。
《会社概要》
10年に防水工事会社として発足。17年からは大規模修繕工事などに元請としても携わる。20年2月に「現場喫茶」を開業。副業の推進やSNS活用など先進的な取り組みが特徴。本社所在地は東京都墨田区押上1の45の1。
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