2018年7月3日火曜日

【中堅世代】それぞれの建設業・204

 ◇華やかな祭典の前に、地道な対応◇

 20年7月に開会する東京五輪まであと2年と迫った。開催都市の東京都や組織委員会、関係自治体などの競技会場整備では進捗(しんちょく)管理の厳しさが一段と増している。会場によってはこれから既存施設の改修工事を発注し、五輪仕様に造り替える計画もある。悩ましいのは入札不調が発生した場合の対応だ。

 ある自治体は最近、会場整備のための建築改修工事の入札を再公告した。担当部署の横井保さん(仮名)は「発注内容の大幅な見直しに踏み切った。これで施工者が決まればいいが」と気の抜けない日々を送っている。

 公共工事は規模が大きければ大きいほど建設会社の参加意欲が高まると思われがちな面もあるが、そう単純ではない。1回目の改修工事の入札には参加申請が1件もなく、手続きが取りやめとなった。WTO政府調達協定の適用対象となる数十億円規模の案件でも、こうした事態は時々起こる。

 「懸念要素は発注前からあった」。改修工事の入札は、新築段階の施工に関わった業者以外の参加が少なくなるケースがあるからだ。同時期に発注された別工事との兼ね合いや、工程の厳しさ、「既存のスポーツ施設を改修するという技術的難易度の高さなどを理由に、参加が敬遠された可能性もある」と分析する。

 競技会場の多くは、五輪のプレイベントを行う19年度までに完成させなければならず、工期の引き延ばしはできない。工事発注の完了と着工は本年度がほぼ期限だ。

 「五輪後の施工でも構わない工事内容は、大会運営に支障が生じないかどうか再検証して除外した。予定価格を見直すことはあっても、規模を縮小して再発注せざるを得なかったのは五輪関係の施設整備では初めてだ」

 こうした苦労や努力は、世間が抱く華やかな五輪のイメージとは異なる。当初スケジュールに沿ったプロジェクト管理を実践できても、当然のこととして気にされることもない。しかし、計画に何らかの問題が生じれば、一転して世間の注目を浴びる。五輪のメインスタジアムとなる新国立競技場や、都が手掛ける海の森水上競技場、有明アリーナなど大規模な新規恒久施設の建設計画も事業費などの再検討で紆余(うよ)曲折があった。

 これからの時期は、五輪に向けた機運を盛り上げるPR活動にも一段と力を入れる必要がある。建設計画の進捗で、再び懸念を抱かれる事態にはしたくない。担当者の肩にかかる重圧は大きい。

 仮に、再発注でも施工者が決まらなかった場合はどうするのか。「考えられる対応はいくつかある。具体的な検討は結果が出てから」。再発注後は少しでも企業に関心を持ってもらおうと、マスコミの協力も得て、工事情報の周知に努めている。

 工事発注担当は公共調達の公平性・透明性を担保する重要な役割を担いながら、携わったプロジェクトの過程で直接喜びを得るチャンスも少ない。工事が最盛期や竣工を迎えるころには、全く別の案件を担当している。華やかさより円滑な事業執行が第一、それが公共調達に関わる公務員としての自負でもある。

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