国内唯一の着床式洋上風力発電施設のモノパイル(基礎構造物)製造拠点であるJFEエンジニアリングの笠岡モノパイル製作所(岡山県笠岡市)が、2025年度下期の本格稼働を予定している。24年3月の開設から1月までに、4本の実物大モックアップを試作。国内の主要な洋上風力発電プロジェクトの停滞に伴い現時点で正式な受注はないものの、上野秀治所長は「今は助走期間。作業者の育成や技術のブラッシュアップを進めている」と語る。カーボンニュートラル社会の実現へ再生可能エネルギーの需要は高まり続ける中、初の受注に備えて超重量構造物の量産体制を整えている。
モノパイル式基礎は風車タワーを海中で支えるモノパイルと、タワーとモノパイルを接続するトランジションピースで構成する。モノパイルは厚さ100ミリ以上の分厚い鋼板を加工するため、量産には高い技術力が要求される。JFEエンジニアリングは洋上風力発電市場の拡大を見据え、モノパイルの艤装(ぎそう)を担う津製作所(津市)の設備拡充を含めて約400億円を投資した。
笠岡モノパイル製作所はJFEスチール西日本製鉄所福山地区(広島県福山市)の東側敷地内にある。瀬戸内海に面した20ヘクタールの敷地には▽素管工場▽研掃・塗装工場▽長管エリア▽保管エリア▽事務所棟▽出荷バース-があり、モノパイルをつくり搬出するまで効率的に運用できるよう施設を配置している。素材となる大単重厚板「Jテラプレート」は、主に同社西日本製鉄所倉敷地区(岡山県倉敷市)から供給を受ける。
モノパイルは最大で直径12メートル、長さ約100メートル、重さ約2500トン、板の厚さ130ミリのサイズを製造可能。週1本のペースで年間約10万トン(約50本)の製造能力を持ち、初年度は約8万トンを見込む。フル稼働時には400人程度の新規雇用が期待されている。
1月30日に報道陣に内部を公開した。広い空間には洋上風力発電が盛んな欧州製の工作機械を中心に、200トンガントリークレーンや鋼板をパイプ状に巻き上げる装置で世界最大級の「ベンディングローラー」といった最新鋭装置が工程に沿って整然と並ぶ。
素管工場内はA、B、Cの各棟に分かれる。まずA・B棟で鋼板をつなぎ合わせた後、ベンディングローラーで巻き上げてリング状の「単管」を製作。C棟で複数の単管を周長溶接によりつなぎ、モノパイルを形づくる。出来上がったモノパイルは塗装工程などを経て、最後は多軸台車で出荷バースまで運び輸送船で出荷する。
製造工程のほとんどを自動化しており「いわゆる職人技は必要ない」(上野所長)が、機械の扱いには習熟を要するという。部材にはQRコードを貼り付けており、作業員がAR(拡張現実)グラスによって部材情報を確認しながら作業できる仕組みだ。公開したモックアップは最大直径9・7メートル、長さ58メートル、重さ1100トンのサイズ。最も需要が見込まれる15メガワット級風車を想定している。
「一番重要な技術は溶接」と上野所長。モノパイル1本当たりの溶接箇所は距離にして計1キロ以上。管の内外から繰り返し溶接を重ねるため、延べではフルマラソン相当に達する。溶接に欠陥があると、補修のために構内に巨大構造物が滞留してしまう。そこで工場建設と並行し、厚い鋼板を効率良く溶接する方法を開発。母材の間に設ける溝「開先」を狭めるなど、ほぼ欠陥を出さない高品質な溶接プロセスを導入した。
上野所長は先行する欧州に対し、日本は「15年分ほど経験に差がある。われわれは後発で、『たわみ』対策などやってみないと分からない課題が多い」と明かす。近年は中国製が欧州市場でもシェアを伸ばしており、「脅威」との認識も示した。一方で海外製に比べ、納入時期を調整しやすく輸送費も抑えられる国産品のメリットを強調する。日本唯一のモノパイル工場として「信頼を得られる『日本品質』を打ち出していきたい」と意気込む。
JFEホールディングスの寺畑雅史代表取締役副社長は6日に開いた25年4~12月期決算会見で、洋上風力発電の発注遅れを踏まえた上で「実際の受注に結び付くと見込む」との見通しを述べた。年間20万トンの国内需要を想定し、10万トン程度の受注を目指す方針だ。
from 論説・コラム – 日刊建設工業新聞 https://www.decn.co.jp/?p=171648
via 日刊建設工業新聞
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