新型コロナウイルスによるテレワークや自宅滞在時間の増加などを背景に、音環境への関心が高まっている。防音対応が、騒音対策など不満という側面からだけではなく、快適な暮らしにおける大切な要素の一つとして認識されつつあるという。防音建材などを手掛けてきた大建工業は、ニューノーマル(新常態)を見据え、意匠性やコストなどを含めて改良や開発を進めている。
同社は、住宅向けとして、音の響きすぎを抑制する吸音効果で話し声などを聞き取りやすくする天井材「クリアトーン」や音響調整用壁材「オトカベ」、床衝撃音の改善が可能な薄型タイプの防音床下地材、防音ドアなどを展開。公共・商業施設用には、オフィス空間を想定したデザインを取り入れた吸音パネル「OFF TONE(オフトーン)」や、天井用吸音パネル「KIN TONE(キントーン)」など幅広い製品を投入し、拡充を図ってきた。コストアップがハードルとなり、防音性能が求められるケース以外の一般層まで浸透が難しかったが、コロナ禍で状況が変わった。
天井用吸音パネルを採用した鹿児島厚生連病院 (鹿児島市、写真提供:大建工業) |
防音・音響仕様の相談を受け付けるために同社が東京と大阪に設置しているサウンドセンターへの毎月の問い合わせは、昨年4月以降、従前の約1・5倍の450件程度に増加。同社アメニティ事業部音響製品部の井上直人サウンドセンター長は「今まではピアノ演奏など音を出す部屋の音性能が問題だったが、コロナ禍でテレワークなどが増えて、一般の部屋でのニーズが顕在化した。お金をかけてでも対応したいという層が増えたと感じている」と話す。騒音抑制という課題解決型の比率が高いが、旅行などが難しくなった中でホームシアターを設置するなど楽しみに起因したニーズも高まっているという。
音響製品部の柴田隆弘部長は、吸音機能整備の一般化が進むとの見方で、「今までの住宅よりも少し防音室に近い程度が求められる。リビングで仕事をする場合でも快適にできるよう音響設計し、それに見合う材料を作っていきたい」との方向性を示す。開発に当たっては、性能・価格とともに意匠性を重視するという。天井材には、接ぎ手部分が目立たないよう疑似目地のようなデザインを取り入れた製品を投入済みだ。新築住宅の施主に工務店から提案することで販売が伸びてきており、「天井を成功事例に広く展開したい」(柴田部長)と意欲を見せる。
壁材も、吸音するための穴の大きさを小さくすることで、1メートル程度離れたら穴が目立たなくなるタイプなどを用意。柴田部長は「リモート会議時の見栄えも考えつつ、意匠性をさらに高めていきたい」と話す。
オフィスなど非住宅分野でも傾向は同じだ。感染リスク軽減の観点からサテライトオフィスなどで個室へのニーズが高まっており、隣への音漏れ防止が求められるようになっている。医療施設の診察室で、患者のプライバシーの観点から防音性能を高めたり、吸音性能を向上することで小さな声で話しやすくしたりするようなニーズもあり、さらなる掘り起こしを狙う。
学校や保育園・幼稚園など教育施設での音対策も注目分野だ。子どもの聴覚や言語発達に音環境が与える影響への研究が進み、先行する海外に続く形で、国内でも音の響きの長さに対する推奨値が示されるなど動きが出ている。吸音性能を高めることで、ガヤガヤした状況が改善され、子どもや保育士のストレスの軽減にもつながる。少子化が進む中での学校施設の差別化戦略にも合致するとみており、積極的に提案していく方針だ。
天井に吸音パネルを導入した東京都目黒区の飲食店「FIVE TREE」 (写真提供:大建工業) |
2020年7月に、音響測定などを強みとする日本音響エンジニアリング(東京都墨田区、山梨忠志社長)と、武蔵野美術大学のソーシャルクリエイティブ研究所との3者で、共同研究を開始した。快適音空間の一般化や新規需要の創出などが狙いだ。動画による発信やリモート配信などを行う企業らが増えており、コストを抑えつつ使いやすく快適な音響空間を実現する「音響パッケージブース」の製品化を見据える。同大学にプロトタイプとなる初弾のブースを設置しており、残響時間の調査などを進めている段階だ。
設計・建設段階から音環境がしっかりと整備されていれば、利用者によるクレームなどは起きず、追加対策によるコスト増を防ぐことが可能。柴田部長は「設計段階から本来あるべき姿を提案する形に持っていきたい。住宅とともに、今まで得意としてこなかった公共・商業建築で防音関係を提案していくことで新たな市場にチャレンジしていきたい」と話している。
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