2021年1月29日金曜日

【最新技術も活用し次世代へ継承】文化庁、国宝・重文建造物の保存・修理対策を強化

  文化財の確実な継承に向けた保存、活用へ-。文化庁は国宝や重要文化財(重文)に指定された建造物の価値を損なうことなく、次世代へ継承するため適切な周期で保存・修理を支援。石垣の耐震診断指針の策定や、人工知能(AI)を利用した文化財建造物の見守りシステム構築などに取り組む。世界遺産や国宝などを対象にした防火対策5か年計画(2020~24年度)に基づき防火対策や耐震対策も強化、促進していく。

 ◇価値を守りながら保存・修理◇

 文化庁は21年度予算案で1075億円(前年度比0・7%増)を計上。このうち「文化財の確実な継承に向けた保存・活用の推進」に関する経費に460億円(0・6%減)を充てる。20年度第3次補正予算の80億円を合わせて、540億円を確保する。

 国宝や重文、史跡などを積極的に活用しながら、次世代へ確実に継承するため、適切な修理・整備や防災・防犯対策などを支援。主な施策として▽建造物の保存修理など(21年度予算案130億61百万円)▽美術工芸品の保存修理など(12億87百万円)▽伝統的建造物群基盤強化(18億13百万円)▽史跡などの保存整備・活用など(206億20百万円)-などに取り組む。

地震で石垣が崩壊した熊本城(熊本市中央区)

 国宝や重文に指定された建造物の価値を損なわないよう保存・修理を進める。木造の文化財建造物は定期的な保存・修理で健全性を回復するだけでなく、構造補強など抜本的な強化を実施。大工など技能者の確保・育成や修理技術の伝承、修理に必要な資材の安定的な確保にもつなげていきたい考えだ。

 明治以降に建造された近現代建造物(土木、建築)には従来の木造のほか、れんが造りや鉄骨造、鉄筋コンクリート造の建築物、土木構造物が含まれる。1993年度に重文指定を開始し、これまでに366件が指定されているが、修理方法や修理周期は確立されていない。このため3D計測など先端技術を活用し、適切な修理時期の把握や迅速な修理によって、公開活用を促進していく。

 2016年4月に起きた熊本地震によって熊本城の石垣が大きな被害を受けた。現在、城郭石垣を持つ国指定の史跡は88件。地震時に崩壊する恐れがあるが、耐震性を判断する具体的な指針がない。このため文化庁は「石垣の耐震診断指針策定事業」を21~22年度の2カ年で実施する。熊本城の災害復旧などで得られた知見を活用し、全国の城郭石垣の調査分析結果を踏まえ指針をまとめる。調査方法や診断方法、対処方針を盛り込む方向で城郭石垣の耐震対策推進に役立てていく。

 ◇AIで破損状況分析、点検効率化◇

 AIを利用し文化財建造物の破損状況の分析などを効率的に実施できる点検手法を確立するため、共有システムを構築する。20年度に文化財点検でAI導入の可能性調査を実施。21年度は瓦やカヤ、柱などの破損データベース(DB)を蓄積し、AIで破損の傾向や分析を行う文化財建造物の「見守りシステム」を構築する。鳥獣害の早期発見や修理費の抑制、見落とし・誤認の防止などの効果を期待している。

 19年4月にパリのノートルダム大聖堂が大規模火災によって破損。同10月には首里城跡で火災が発生した。こうした惨事がほかの国宝や重文、史跡などで生じないよう緊急状況調査結果などを踏まえ、文部科学省は「世界遺産・国宝等における防火対策5か年計画」を同12月に決定。期間中(20~24年度)に重点的、計画的に防火対策を進めていく。

半解体修理が進む重文・本隆寺本堂(京都市上京区)

 5か年計画の2年目となる21年度も文化財を守るための対策を推進。文化財の保全と見学者の安全を確保する観点から、防火対策や耐震対策に関する施設設備(自動火災報知施設、消火栓施設、ドレンチャー設備など)の整備費・更新費を補助する。20年度第3次補正予算と21年度予算案を合わせて、72億20百万円を確保する。

 全国の博物館や美術館などの所蔵品や国指定の文化財に関する情報をデジタルアーカイブ化し、情報を検索できるポータルサイト「文化遺産オンライン」の構築を進めている。この一環で消失した文化財の復元資料として活用するため、国指定などの文化財の設計図や写真など詳細記録のデジタルアーカイブ化にも取り組んでいく。

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