2019年11月11日月曜日

【中堅世代】それぞれの建設業・239

苦い経験を踏み台にしてあこがれの技能大会で優勝することができた
◇検定を通じて何が大切かを学んだ◇

 建設職人になって20年。中村辰昭さん(仮名)にとって今年は生涯忘れることができない年になりそうだ。若いころから夢見ていた所属団体の技能大会にエリア代表として初出場し、見事優勝の栄冠を手にした。自分一人の力では勝ち取ることができなかった。大会直前の1カ月間、中村さんが現場よりも練習を優先できるよう会社も配慮してくれた。「社長と一緒に働く仲間と共に勝つことができた」と中村さんは喜びをかみしめる。

 いくつかの職を渡り歩いた後、現在の会社に入ったのが25歳の時。遅くもないが、決して早いわけでもない。実際、自分よりも若い職人が後輩を引き連れて現場を任されているのを目の当たりにすると、元来の負けん気の強さもあってか悔しい思いがこみ上げた。

 「現場で一通りのことができるようになるまでに最低5年。一人前と呼ばれるには10年はかかる」

 会社に入るとき、社長にそう言われたことを忘れたわけではない。それでも仲間に少しでも近づき、追い抜いてやろうと中村さんは必死に働いた。努力のかいもあり、めきめきと腕を上げ、現場で任される仕事が増えていった。

 やがて技能検定試験を受験できる経験年数に達した。キャリアの一環とすぐに申し込み、会社も支援してくれた。誰にも負けないほど腕を上げたと、自信が持てるようになっていた。ただ合格するだけでは満足できないと考え、「どうせなら一番早く仕上げよう」と思いながら実技試験に臨んだ。

 同じ会場で数十人が参加した実技。中村さんは一番早く仕上げることができた。しかし、検定では決められた時間内に仕上げることができれば良く、何より重視されたのは出来栄えだった。その出来栄えで中村さんはトップを取ることができなかった。

 出来栄えが重視されることは理解していた。早さでも一番を目指したのは、中村さんの職人としてのプライドだった。検定の結果はその考えが間違いだったことを突きつけた。

 早い作業で生産性を高めることはもちろん大切。だが建物を使い、住む人にとってみれば、使い勝手の良い出来栄えこそが重要だ。検定を通じて中村さんは、職人にとって何が大切かを改めて考えるようになった。

 今は職長として若い職人を引き連れて数々の現場をこなしている。段取りよく施工することを重視しながらも、いつも職人たちには「お客さんに喜ばれるしっかりとした施工」の必要性を繰り返し伝えている。

 技能検定で味わった苦い経験で得た発想の転換は自分の原点でもある。今回の優勝がそれを立証させた。次の世代の若手が挑戦する時には「自分も全力でバックアップしたい」。今はそんな思いでいる。

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