新しいコンセプトの多目的アリーナ整備とまちづくりを一体的に行う取り組みが、沖縄県沖縄市で進んでいる。
来場者に楽しんでもらうエンターテインメント性と「稼げる」施設としての機能性を徹底的に追求。市は、観光産業を発展させ、地域振興にも貢献する起爆剤として事業を推し進めている。
国内にあるこれまでの施設とは一線を画す「沖縄アリーナ」プロジェクトの最前線を紹介する。
◇稼げる・魅せる・使いやすいアリーナを追求◇
沖縄市に臨場感あふれる収容1万人規模の欧米型アリーナを整備する事業は、桑江朝千夫市長が力を注ぐ重点プロジェクトの一つ。同市には市営と県営で二つの運動公園が立地し、プロ・アマを問わずさまざまなスポーツイベントが開催されてきた。ただ公園内にある体育館はいずれも競技者の視点で整備した従来型の施設で、来場者に楽しんでもらう「観光誘客機能」は備えていなかった。
プロバスケットボールを中心にスポーツ興行を開催する「魅せる施設」、コンサートやイベントを開く「使いやすい施設」、来場者の満足度が高く多くの事業主体に「利用してもらえる施設」。沖縄アリーナは「沖縄県の主力産業である観光を念頭に、より多くの人を呼び込むための施設として計画を練り上げてきた」と市企画部プロジェクト推進室の山内強室長は話す。
基本計画を策定する過程では、地元のプロバスケットボールチーム・琉球ゴールデンキングスと密接に連携。プロリーグの本場、米国の事情に詳しいチーム関係者からアリーナが備えるべき機能や観客席の配置方法などについて意見を聞き、計画に反映させた。
市が整備する公共施設ではあるが、沖縄アリーナは「民間が運営して利益を生み出し、その利益を施設に再投資する」というのが基本的なコンセプト。山内室長は「都市公園法など法規制で実現が困難なことはたくさんあるが、われわれは『課題を克服するために何ができるか』という前提でプロジェクトを進めている」という。
建設地は市が運営するコザ運動公園(山内1丁目、諸見里2丁目)内。既に梓設計・創建設計・アトリエ海風JVに委託した「沖縄市多目的アリーナ施設等整備全体計画調査業務」は完了しており、基本計画の策定と基本設計を終えている。総事業費は「通常の体育館整備の4~5倍は必要」と見込んでおり、100億円を超える規模が想定されている。
市は「基本設計がすべてではなく、キングスをはじめとする利用者、これから決める運営管理者など外部の意見も実施設計に取り込みたい」考え。実施設計の委託先を決める手続きはこれから開始し、建設方法も16年度内に固める。プロジェクトの成否の鍵を握る施設の管理運営は、PFI方式を含めて検討しており、「実施設計の期間を短縮して、できるだけ早く供用を開始したい」としている。
◇「評判が評判を生む」施設に◇
市が目指すのは「良い評判がさらに良い評判を生み出す施設」。VIPルームの設置や飲食・物販店の営業、建物内外への企業広告の掲示など、施設運営を通じて収益を得ていく視点も重視する。
市の財政負担を軽減するために、施設のネーミングライツ(命名権)の販売や指定管理者制度を導入する自治体は増えている。だが、沖縄アリーナはこうした取り組みとは異なり、施設の稼働率を高めた上で収支を黒字化し、運営管理者が安定的な利益を得るという目標を掲げる。
近く開幕するプロバスケットボールリーグ(Bリーグ)に参加するキングスの本拠地としてだけでなく、コンサートやショービジネスなどの開催も想定。照明や音響は過度な設備を配置せず、それぞれのプロが自由に設備や機材を配置できる仕様にする。
「これまでの公共施設は自ら行動を規制していた側面があった。(沖縄アリーナは)壁を壊すことを恐れず、これまでの行政では実現できなかったことをやっていきたい」と山内室長。来場者を魅了し楽しんでもらう施設というコンセプト以外にも、「万が一災害が発生した場合には防災拠点としての機能が果たせるようにする」。
さらに隣接地への宿泊施設誘致も検討。滞在型観光を実現することで、地域経済の活性化にもつなげたいとしている。
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