災害で地盤が崩れた住宅地。 地質を読み解くことで次善策を講じることができるはずだ |
今年も、台風による豪雨や地震など日本列島は災害が後を絶たない。長年「地質屋」として仕事をしてきた宮本徹哉さん(仮名)は、大きな災害が起きるたびに、自分たちの役割を強く感じざるを得ない。
地質調査業の仕事は、インフラ整備はもちろん、災害対応や予防策も含め建設事業のほぼすべてに関係する。地質を読み解くと、災害の端緒が見えてくることも少なくない。
若いころ、東北地方での仕事で、平安時代に起きた貞観地震による津波の痕跡を目にした。「この1000年の間に、地球にものすごいことが起きていたのか」と身震いした。だから、5年前の東日本大震災で一部の専門家から「想定外」という発言が出てきた時には、「あなたたちが知らなかっただけだろう」と無性に腹が立った。同時に、われわれがしっかりと伝えてこなかったという自責の念にも駆られた。
「土木構造物は100年程度のスパンに過ぎないが、地質は何億年という時間の流れと共にある」。それが持論。地質には、太古からの地球の活動が刻まれている。現在の状態を見るだけではなく、将来の推定につなげることもできる。その技術を、プロとしてどう生かすのか-。昨今の大規模災害は、そうした問いを自らに投げ掛けているようにも感じる。
地質の仕事は、理学と工学が混ざった分野だ。地層や化石を調べて地球のことをもっと知り、住みよい国土にするために将来を考える。科学となりわいが一体化しているともいえる。地球と対峙(たいじ)しながら社会に貢献するという意味で、夢のある仕事だと思っている。子どもたちや若者に地質調査業の大切さをもっと知ってほしい。そんな気持ちも強い。
だが、「将来に希望を持てるだけの仕事があるのか」と問われると、答えに窮する。災害などが起きて仕事が急増したとしても、またしぼんでいく。皆がそんなふうに見ていることも事実。若い担い手が必要だと思っていても、直近の経営状況を考えると、担い手の話は二の次になってしまいがちだ。
とはいえ、安全・安心のためのインフラ整備や、その維持管理、災害対応を行う上で、地域に根差した地質調査会社は無くてはならない存在。だとすれば、自分たちが生き残れる形に変わらなければならないのだろうと思う。
例えば、地域の中で同業者や異業種の会社と組み、総合力を高めて仕事をするような姿がもっとあってもよい。労働環境や生産性にもメスを入れなければならない。ボーリング調査で山の中に入らなければならない機会も多く、仕事のやり方を抜本的に変えることはそう簡単ではない。だからこそ、ボーリングマシンメーカーなどと連携し、できるだけ自動化・機械化を図るような努力も必要だと思う。
ただ、どんなに自動化が進んでも、採取した試料を読み解くことは人間にしかできない。最後の核となる部分に人間の力を集中させる。そうした環境を少しずつ作っていくべきだ。何より、そうした道を目指さない限り、若い人は付いてこない。自分が生きてきた業界のことを、危機意識を持ってこれからも考えていこうと思っている。
「だって、われわれがいなくなったら、皆が困るだろう」。にやりとしながらそう言い放つ姿に、決意と自負がにじみ出る。
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