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3月に竣工した右翼側スタンド。プロ野球開幕後、多くの観客でにぎわった |
◇6千席増設、来場者の安全最優先◇
球場の増築・改修が進む「横浜スタジアム」(横浜市中区)。2020年東京五輪の野球・ソフトボール競技でメイン会場に決定したことをきっかけに、6000席の増設や回遊デッキの整備、老朽化した施設・設備の改修が行われることになった。球場の運営と改修を担う横浜スタジアム(横浜市中区、藤井謙宗社長)と、施工を担当する清水建設・馬淵建設・大洋建設JVの担当者に工事の現況と狙いを聞いた。
横浜スタジアムは国内初の多目的スタジアムとして1978年に竣工した。プロ野球・横浜DeNAベイスターズが本拠地として使用している。来場客が増加する中で、完成から40年以上が経過した施設は設備などの老朽化対策が課題になっていた。運営会社の横浜スタジアムが増築と改修を決定したのは16年夏。同社球場整備プロジェクト室の葛西光春室長は「もとから球場整備をしたいという考えはあったので、五輪に間に合う形で整備を進めることにした」と当時の状況を説明。同年末に整備の設計・施工者などを決めた。
設計を清水建設が手掛け、施工は清水建設JV、CM(コンストラクションマネジメント)業務を山下PMCが担当している。工期は17年11月25日~20年2月末。2年3カ月で右翼側と左翼側、バックネット裏に新しいスタンドを整備し、観客席を合計6000席増設する。工事は清水建設の提案で1期(右翼側・バックネット裏、3月竣工)、2期(左翼側、20年2月竣工予定)に分けた。一部施設の開業を早めたのは、より多くのベイスターズファンに新しいスタジアムを楽しんでもらいたかったためだ。
球場には横浜公園の噴水や広場が隣接する。増築プロジェクトは限られた敷地でいかに座席を増設するかが課題だった。ホーム側(右翼)の席数を増やしながら、人通りの多い交差点側の左翼直下のスペースを広く確保するため、増席数の配分は、右翼側3500席、左翼側2500席に設定。横浜公園の周辺はオフィス街となっており、人通りは日常的に多い。増設部の荷重は鉄骨の柱が受け止め、歩行者動線への影響を最小限にとどめる設計とした。
◇仮設計画を複数用意、限られた作業時間とスペースに対応◇
工事は来場者の安全に最大限配慮して進めている。球場整備プロジェクト室の杉田由起夫参事役によると「3万人の来場者が安全に球場に出入りできるように、仮設計画を数パターン用意してもらっている」という。工事ヤードはプロ野球のシーズン中はスペースを狭め、オフシーズンは広くするなど、試合やイベントに応じて仮囲いの配置や量をこまめに変えている。
工事時間も特殊だ。当日の試合が午後6時に開始する場合、正午には来場者を迎える準備を整える必要がある。午前5時ごろに作業を開始し、午前11時ごろには片付けを完了するようにしている。
「個室観覧席部分へのS・PC造の採用や、オフシーズン中にできるだけ工事を進めるようにした」と工期を守る工夫を語るのは、清水建設商業・複合施設設計部の平賀直樹グループ長。横浜公園は景観を保護するため、31メートルの高さ制限が設定されている。バックネット裏スタンドの設計について平賀グループ長は「高さ制限と既存の躯体の間の限られた範囲に2フロアの施設を設計するため、工夫を凝らした」と語る。
バックネット裏スタンドはS造4階建てで、3・4階にバルコニー付きの個室観覧席を新設し、屋上がテラス席となっている。最大16人で利用できる部屋から、10人、8人用の部屋まで合計30室ある。「歓談する屋外空間とおもてなし用の内部空間に分け、一体感を持たせながらもメリハリを意識した」と平賀グループ長。屋上には6人掛けのベンチとテーブルを30席用意。テラスからは富士山や横浜の街並みが眺められ、杉田参事役は「横浜の新名所になる」と期待する。
同スタンドの個室では天井が高く見えるように折り上げ天井を採用。「部屋を広く見せる方法」(重田克巳球場整備プロジェクト室部長)を受発注者で練った。バックネット裏スタンドは2階デッキを解体し、既存の構造部に荷重をかけないようオーバーハングして設置した。工程を綿密に調整し、限られた工事スペースを有効に活用。平賀グループ長は「施工で最も力を入れた部分だった」と振り返る。
観客席からの見やすさには特にこだわった。それぞれの席で視線を丁寧にチェック。BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)も駆使した。平賀グループ長は「視線チェック時に死角が即座に判明した。関係者間での共有も早まった」とBIMの効果を語る。
球場の2階部分には、試合のない日でも散策やジョギングが可能な1周600メートルの回遊デッキが設置される。清水建設と協議し「都市景観にも配慮できた」と杉田参事役。壁面緑化なども計画しているという。
県の高校野球大会やコンサートなど、球場はプロ野球の公式戦以外でも使用する機会が多い。重田部長は「大掛かりな工事の最中にイベントが入ることもあった。工程を綿密に調整していただき助かっている」と謝意を示す。
右翼側スタンドとバックネット裏スタンドが完成して開幕した今季、ベイスターズはリーグ2位という好成績を収めた。スタジアムでの勝率は6割を超え、観客動員数は球団史上最速で200万人に到達した。葛西室長は「改修の成果の一つ。応援の迫力が増し、チームの後押しになったのではないか」と笑顔を見せる。スタジアムは来年3月、グランドオープンを迎える。右翼側から左翼側まで満員となった観客席からは今年以上の声援が聞こえるはずだ。