地盤を理解し把握するには技術の研さんが欠かせない |
◇対話が成長の原動力に◇
「あらゆる構造物は地盤と接している。地質の状態を把握しなくては質の高いインフラは生まれない」。地質調査会社に勤務する川崎隆さん(仮称)は、ある地方都市で発生した大規模な陥没事故を教訓に、目に見えない地質リスクの可視化が建築物や構造物の品質には欠かせないと部下に説く。地球温暖化の影響でほぼ毎年、日本列島を襲う局地豪雨や台風。相次ぎ発生する土砂災害を少しでも減らそうと地質調査に奔走する。
ものづくりに没頭していた少年時代。学生のころは理数科目が得意だった。当時は珍しい「海洋工学」がメインの学部がある地元の国立大学に進学。ゼミを担当した指導教授と一緒になって、海洋資源の発掘調査にのめり込んだ。就職活動を迎えた時期に知人から地質調査会社を紹介された。当時は就職氷河期。「これも何かの縁」と思い現在の会社に就職した。
入社後に配属されたのは関東一円を管轄する埼玉県内の支店だった。主な仕事は団地建て替えに伴う地盤調査や災害時に氾濫する可能性がある河川を対象とした堤防の補強対策。多忙な日々は「文字通り自分を鍛え上げるための修行」と若手時代を振り返る。
支店がある埼玉と東京の本社は距離も近く、トップレベルの技術力を誇る先輩社員とも盛んに交流できた。休日は河原でバーベキューを楽しんだり、酒席を共にしたりしながら自身の技術を磨いた。SNS(インターネット交流サイト)が普及していなかった当時、先輩社員との会話から技術とは何かを学んだ。この時の経験が成長の原動力になった。
入社3年目に差し掛かったころ、局地豪雨が影響して破堤してしまった河川の復旧作業を担当した。人材不足も重なり、隣県を管轄していた支店の社員と協力し、寝食を忘れて決壊の原因究明に当たった。その結果、想定を上回る河川水量に堤防が耐えられなかったということが分かった。
地方支店に勤務した後、昨年、本社に戻り部長として技術部を率いる立場になった。働き方改革の一環で会社にもリモートワークが定着し始めていた。現場を遠隔管理するというやり方に、当初は戸惑いを覚えていた。時を同じくして世界を震え上がらせた新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)が発生した。
建設業界にもICT(情報通信技術)の波が押し寄せている。現場の生産効率がアップしたり、ワーク・ライフ・バランス(仕事と家庭の調和)の実現が期待されたりする一方、「質をどう確保していくか」が問われる仕事。地盤に接していない構造物は存在しない。より良質なインフラを構築するには、地質調査会社の存在は欠かせない。
技術資料を読みあさるだけでなく、コミュニケーションによって人間は成長する。「地質のプロになれ」と部下にげきを飛ばしつつ、自身が成長するための道筋を今も模索している。
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