2020年9月8日火曜日

【駆け出しのころ】大林組執行役員デジタル推進室長兼iPDセンター所長・岡野英一郎氏

 ◇目標持ちステップアップを◇

 学生時代、世界を股に掛ける大型案件のプロジェクトマネジャーに憧れを抱きました。新設大学の1期生だったので社会人の先輩がいない中での入社となりましたが、自分で苦労を背負うところにチャンスがあるのではと思いました。

 入社後、建築見積部門の積算課に配属され、数カ月が過ぎたころに顧客の工場で爆発事故が発生。顧客支援の事故対応のため、私も含めて全国から人が集められました。近隣の住宅街にも被害が及んだことから、家屋の被害調査や補修工事などに当たりました。最後まで残って事故対応に取り組み、被害者の方々に怒られてつらいなとも感じましたが、その時に辛抱した経験はその後に役立っています。

 入社2年目に担当した岸和田文化センターの建設工事では、いろいろなことを学びました。とにかく早く現場のことを覚えたい一心で、上司や先輩たちから業務を任され、学びの場を与えてもらっていることに当時は幸せを感じていました。

 学んだすべてが技術者としての基礎になっています。所長には「考えて仕事をしているのか」と問われ、水切りの左官一つにしても作業の順序に意味があり、水が逆戻りしないための塗り方があると諭されました。それ以降、ただやるのではなく、そこに込められた一つ一つの意味を考えるようになりました。

 品川インターシティーや舞浜のイクスピアリ、海外の大型案件など思い出深い現場は多々あります。ドバイメトロの駅舎工事のほか、最後に所長を任されたシンガポールの複合施設DUOの建設工事などは、工期通りに終わるんだろうかと不安になりましたが、工事を進める上でいろいろなことに恵まれ、やりきることができました。

 一番恵まれたのは人です。ドバイではさまざまな国の人材をリクルートし、200~300人ほど採用。それ以上の人数と面談し、組織づくりの大切さを感じました。シンガポールの工事も大変でしたが、面談しながら相思相愛の人材を採用したことが、現場を円滑に進める要因の一つになったと思います。

 何事も前に進めるためのマイルストーンが重要です。自分の技術者人生も一つ一つステップを踏みながら経験を積めたことは幸せでした。若い人たちも目標をしっかり持ち、自分の仕事の管理は自分で責任を持って取り組んでほしい。

 コロナ禍でニューノーマルと叫ばれていますが、IT会社などの言葉に踊らされず、変化の流れを見定める必要があります。デジタル化による業務変革も、大きな夢物語の前に、今のやり方に根差した進歩のマイルストーンを一つ一つクリアしていくことが大切です。

スペイン留学後、34歳の時。
設立と運営に携わった大林ヨーロッパ・マドリッド支店で(左端が本人)

 (おかの・えいいちろう)1982年豊橋技術科学大学大学院工学研究科修士課程修了、大林組入社。建築本部BIM推進室部長や同iPDセンター所長(現任)などを経て2020年4月から現職。愛知県出身、62歳。

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