2020年12月7日月曜日

【中堅世代】それぞれの建設業・273

再開発事業では住民との意思疎通が欠かせない

 ◇コロナ下でも住民と進める再開発◇

  「いい街ができれば、人と人のコミュニティーも良くなっていく」。自治体で再開発事業の取りまとめを担当する大森博さん(仮名)は、コロナ禍で顔を合わせたコミュニケーションが取りにくい状況にあって、「行政が地域の意見を聞きながら、課題の解決方法を探っていくことが使命」と熱意を見せる。

 新型コロナウイルスの感染防止もあり、住民と自治体の意見交換は難しくなっている。再開発事業は、都市計画手続きを進めるための説明会などを開催できず、足踏みしている案件が少なくない。

 だが大森さんは都市計画手続きを前に進めることに意欲を燃やす。街の課題を解決してほしいという住民の切実な声に応え、新型コロナの収束後いち早く新生活に移行できるようにすることが大事だと判断した。

 最初の課題は地区計画や再開発の原案縦覧を開始した時、住民に周知する方法が無いことだった。通常であれば再開発の告知は、シルバー人材センターに頼んで資料をポスティングしてもらっている。だが感染リスクの高い高齢者への委託は難しい。

 告知をホームページに掲載してもすべての住民が見られるとは限らず、民間委託も経費が準備できない。「自分たちで配るしかない」。大森さんは腹をくくり約75ヘクタールに及ぶ地域を職員7人で分担し、約8000戸にポスティングした。

 作業を終えるまで5日間がかかったが、「現場を歩いたことでこれまで以上に街を知るきっかけになった」という。

 コロナ下での再開発に頭を悩ませていた他の自治体からも、手続きをどのように進めているのか問い合わせがあった。「方法がないからと諦めるのではなく、どうしたらできるのかを考えた」。

 6月には住民向けの説明会を開催。1回当たりの参加人数を絞り、計3回開くなど感染防止対策に万全を期した。反対意見を寄せた住民と個別に面会し丁寧に説明するなど、すべての住民に納得してもらうことを心掛けた。

 さまざまな取り組みが実を結び、都市計画決定前の最終段階となる都市計画案の縦覧では反対意見がゼロに。「これまでの取り組みに意義があったことを実感できた」。その後、事業は無事に都市計画決定の手続きを終えた。住民から感謝の言葉をもらう機会も多いが「背中を押してもらったのは自分たち」と話す。

 街づくりに懸ける思いが強いのは「街づくりは人づくり」との思いがあるからだ。再開発などを通じて建物を共同化すると、そこに住む人々の間に新たな関係が生まれることになる。「建物だけではなく地域のコミュニティーも作っている」との思いが常にある。

 地区では新たな再開発の機運も高まりつつある。「地域の声を大事にしながら希望に応えられるような街づくりを進めていきたい」と決意を新たにしている。

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