いつもの年の瀬とはどうも違う。例年であればこの時期は、手帳に夜の宴席予定がびっしり。だが今年は真っ白なまま。今更ながらコロナ禍の影響を感じる▼作家の池波正太郎は、子どものころ「ポテ正(しょう)」と呼ばれていた。手伝いの駄賃がたまるとポテトフライを買って食べていたため、その名が付いたそう。青年時代はカレーライスとチキンライスにはまった。好きな食べ物はとことん極める。そんな性格だったようだ▼50歳を過ぎて、食へのこだわりが多くの食べ物エッセーの名著を生んだ。『食卓の情景』『散歩の時に何か食べたくなって』『むかしの味』…。扱う料理はおでんや天ぷら、すし、シューマイなど、ありふれたものだが、読後に不思議と食欲が湧いてくる▼人は食べ方や飲み方を見ればどういう人か分かるという。池波は「通」のたしなみを語るのではなく、料理人や隣の席で食べている人などを観察し、おいしいものを食べる楽しさを素直に伝えてくれる▼収まる気配のない感染症。現況を考えると今は我慢の時だろう。ただなじみの店がどうなっているか心配は尽きない。手厚い支援を願いたい。
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