東京都世田谷区の京王線桜上水駅が最寄りの武蔵野の面影が残る住宅街に建築家・内田祥哉氏(東京大学名誉教授)の自邸がある。築50年を過ぎた木造平屋を取材で訪ねると、北側に位置する応接室に通される▼もともとは玄関で改築時に土間のように一段低く囲まれた応接室になった。北面の窓から優しい光が入る心地よい空間だ。内田氏は「深謀遠慮じゃなくて、行き当たりばったりが多い」と話していたが、建築家の造る自宅のすごさを肌で感じた▼内田氏が96歳で亡くなった。設計活動だけでなく戦後の住宅供給や建築生産のシステム化など多様な分野で活躍してきた。常に広範囲にわたる研究を続け、その知識の深さは建築家随一と言われた。教育者としても東大で教壇に立って、建築家やゼネコン経営者らを育てた▼東日本大震災から1年後。復興事業に建築界の存在が薄い中、建築の力が復興に必要かどうか尋ねると「土木や都市計画がまとめる復興の姿が完成した後、建築は一斉に爆発的に支援することができる」と▼造ったり考えたりを実践し続けた建築界の「先生」。建築の力を信じる大切さを教えてくれた。
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