2020年2月3日月曜日

【中堅世代】それぞれの建設業・245

子どもを連れて工事現場巡り。一風変わった「保活」に取り組んだ
◇ママさんでもバリキャリしたい◇

 「ママさんは元の場所に戻れない」。そんな古い価値観が当たり前だった時代はそれほど昔のことではない。産休・育休から復帰後、職場での居場所を失ったような気がした。第一線で活躍できるポジションを外されサポート役しか任されない。数年前、自分の身に降りかかった環境の変化に森田香さん(仮名)は悩んでいた。「ママさんでもバリキャリ(バリバリ働くキャリアウーマン)したい」と願っていた。

 新卒当時、ゼネコンやデベロッパーの採用説明会に出掛けても、門前払いはざらだった。建築学科を出て、しばらくはメーカーに勤めたが「より大きく形に残るものをつくりたい」とデベロッパーに入社。業界大手にもかかわらず、技術系総合職で採用された女性はまだ希少な時代だった。

 デベロッパーの花形といえる開発担当部門。その中でもオフィスビルの新シリーズを立ち上げるプロジェクトチームのメンバーに抜てきされた。寝る間も惜しんで、シリーズの基本となるデザインやスペックを作り込む毎日。「やりがいがあり、面白くて仕方なかった」。真っ黒に見えるロゴデザインは、実は黒に青や紫を微妙に混ぜたもの。透き通るような黒色を追究したのだという。細部のこだわりを挙げれば切りがない。

 妊娠・出産を機に仕事を一時離れたが、バリキャリ気質は「保活」でも本領を発揮する。待機児童の急増が社会問題化し、共働き世帯の保育所を巡る競争は熾烈(しれつ)を極める。そこで本業の知識を生かした独自の戦略を取った。

 「どうやら新設の保育所の方が入りやすいらしい」。子どもが複数いる家庭は兄弟を預ける保育所へ一緒に入れたがるもの。結果として既設の保育所は、倍率が跳ね上がる。ただ新設を狙おうにも、認可・認証されてからでないと自治体からの情報はオープンにされない。ライバルを出し抜くにはどうしたらいいか。森田さんはベビーカーを押しながら近所をぐるぐる回ることにした。

 目を付けたのは街中の工事現場だ。仮囲いに掲示されたお知らせ看板を確認。保育所だと判明すれば、現場所長に図面を見せてもらった。「図面を見れば、年齢ごとの定員数はだいたい目星が付く」。狭き門をくぐり抜け、希望通りに入所を決めたのは言うまでもない。

 復帰後の思い悩む時期を経て、同業他社への転職を決断。今は5件程度の開発案件を抱え、「一杯一杯だが、やはり楽しい」。ママさん向けの福利厚生が整った新しい環境がありがたい。

 建設業界で女性活躍が叫ばれて久しい。ただ当事者として問題の根は深いとも感じる。女性の社会進出の一方で、男性の家庭・育児参加がそれほど進んでいるとは思えないからだ。「いまだに仕事と家庭の男女バランスは悪すぎると思う。『けんせつ小町』があるのなら『けんせつイクメン』があってもいいのでは」。優しさと鋭さを併せ持ったその語り口は、まさにバリキャリママだ。

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