◇現場で学び成長の糧に◇
自然を相手にする仕事に関心がありました。東洋建設へ入社後は九州支店に配属。最初の半年は熊本県内の大規模浚渫・護岸工事の現場に立ち、右も左も分からず周囲に言われたことをこなす日々でした。
次も同じ熊本で天草地方の作業所に移ります。2年目の秋には小さな漁港の防波堤工事の作業所長を任されました。周囲の他の工事と合わせて統括所長がサポートしてくれましたが、翌日の作業が不安で眠れない時のため、枕元にはウイスキーを常備していました。
見よう見まねで組んだ担当工事の実行予算を統括所長に手渡すと、赤ペンで各工種の歩掛かりを全部書き込んでくれました。現場の基本は歩掛かりの把握であり、原価管理の基本である実行予算のイロハをたたき込まれました。
干満の差が大きい現場で、潮が一番引く夜間に支保工の解体作業を行いました。冬の寒風の中、ゴム長を履いてのぬかるみでの作業は、若いながらもきつかったことを覚えています。
作業員の中には年配の方や気性の激しい方もおり、現場内のもめごとを仲裁するのも一苦労。双方の意見をしっかり聞き、作業所長である自分の考えを伝え、指示を出すように心掛けました。また、年配者には後でフォローするなど、コミュニケーションには特に意識して取り組みました。
相手の意見を尊重しつつも、自分の意見をきちんと伝えなければ現場は回りません。全体工期を踏まえ、各工種の作業工程の兼ね合いを図りながら、みんなが納得して作業することが大切です。
九州では海上土木を中心に現場を回り、入社12年目に東京支店へ異動。都市土木で求められる高難度の技術にカルチャーショックを受けました。近くの別の現場で所長をしていた先輩技術者に相談したところ、「十年余り現場でやってきた実績を自信にしろ」とげきを飛ばされ、モチベーションを保つことができました。
関東は地質が複雑なことから、構造計算や設計に関する技術などを重点的に学びました。最後の現場勤務となった都内の地下駐車場工事では、地元からのクレーム対応や地下埋設物の移設・防護の協議など、自然はもとより人間関係にも気を使いながらのリスク対応で心身が鍛えられました。
5年前に本社の土木部長に就いた時、ベトナムの現場が自然災害に遭い、早期復旧の対応を任されました。海外勤務の経験はなく、不安もありましたが、久々の現場での陣頭指揮に気持ちが奮い立ちました。現場で学んできたことが、いかなる時でも役に立ち、成長の糧になっているのだと実感しました。若い人たちにも多くの現場を回りながらいろいろなことを学び、成長してもらいたいです。
入社6年目ころ。熊本・天草の港湾工事現場で |
(おおばやし・はるひさ)1982年鹿児島大学工学部海洋開発土木工学科卒、東洋建設入社。執行役員土木事業本部土木部長、同国際支店副支店長兼工事部長などを経て2019年から現職。大分県出身、61歳。
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