19年5月に三菱地所が開業した「WORK&ation Site 南紀白浜」 |
リゾート地や温泉地などで仕事をする「ワーケーション」の需要に応える動きが拡大している。大手デベロッパーが専用の施設を整備したり、ワーケーション利用を想定した宿泊プランを販売したりしている。ウィズコロナ、アフターコロナを見据えた新たな働き方として、不動産業界らが動向を注視している。
2017年からワーケーション事業を検討してきたのは三菱地所。営業企画部の田村可奈主事によると、検討のきっかけは「生産的な働き方、ビジネスやイノベーションの創出、優秀な人材の確保に有利な職場環境の提供」だったという。
同社は19年5月に「WORK×ation Site南紀白浜」(和歌山県白浜町)、今年7月に「同軽井沢」(長野県軽井沢町)の二つのワーケーション施設をオープンした。施設を予約できたり観光スポットを紹介したりするポータルサイトも設けた。
新型コロナウイルス感染症の流行で、田村主事は「思い描いていた働き方の未来の世界が前倒しとなった」と話す。「テレワークが普及する中、ニーズは増えていく」とにらみ、新規施設の開業など事業拡大を虎視眈々(たんたん)と狙う。
既存のリゾートホテルなどを使った取り組みも出ている。森トラストは3カ所のマリオットホテルにスモールオフィス「Cozy Works」を整備した。東急不動産グループやオリックスグループは、運営する宿泊施設でワーケーションの利用を促すプランを展開。印刷機を無料で利用できたりといったサービスを提供する。
ワーケーションの利用者からは「決められた時間内でより集中できた」(三菱地所)といった、生産性向上につながったという感想が出ている。「仕事と癒やしを両立できた」(東急不動産)など、リゾート地ならではの心地良さを楽しんだ利用者もいる。
「平日の利用も増えてくると思う」(オリックス)、「夏に家族連れで訪れた人がいた」(森トラスト)と、事業に手応えを感じる声もある。一方で、「さまざまな場所で仕事をする『ノマドワーカー』のような存在が増えるだろうか」(同)、「需要が伸びるかはまだ眉唾もの」(東急不)と、ワーケーションの浸透に懐疑的な考えがあるのも事実だ。
コロナ禍で落ち込んだ観光需要の回復策として、国や行政はワーケーションに期待を寄せる。菅義偉首相は9月29日の観光戦略実行推進会議で、国内観光のさらなる回復に向け「ワーケーションなどをはじめとした幅広い対策が必要だ」との考えを示した。
和歌山県は、自治体の取り組みについて情報発信する「ワーケーション自治体協議会」の幹事を務めるなど、ワーケーション普及に力を入れる。「まず来てもらって、その地域を好きになってほしい」と語る県担当者。ワーケーションをきっかけに地域の魅力を発信することで、「リピーターを増やし定住人口の増加につなげる」戦略を描く。
依然低迷する宿泊施設などの稼働率を引き上げ、産業や地域の振興につながるのか-。この先を決めるのは一過性にとどまらない官民の知恵と工夫だろう。
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