2020年11月2日月曜日

【中堅世代】それぞれの建設業・270

地域に寄り添い信頼関係を築く大切さを学んだ

  ◇結局は人と人とのつながり◇

 「どんな事業を行うにしても、結局最後は人と人とのつながりが大切」。香川由秀さん(仮名)は交通ネットワークの整備や維持管理などを担う企業で働く。整備事業が動きだした時、初めは苦情が多かった沿線住民の反応が徐々に変化し、最後に感謝の言葉を掛けてもらった経験を通じて、「地域住民の目線で物事を考え、信頼関係を築く」大切さを学んだ。

 30代半ばだった頃、関西エリアの重交通路線で高架橋の桁連結化工事を担当した。工事の準備段階から振動や騒音に対する苦情が次々に寄せられ、対応に苦労した。工事の目的は車両大型化への対応。紋切り型の説明で住民の理解を得られるはずもなく、「どうすれば理解してもらえるのか」工事関係者として思い悩む日々を過ごした。

 工事で橋桁のジョイントが少なくなれば、トラックなどが通っても振動や騒音が減り、結果的に周辺環境が改善する。住民の立場で事業のメリットを丁寧に説明し、「工事中の騒音・振動もゼロにはできない。でも半減できるように頑張る」と約束した。住民アンケートも実施。課題や問題を把握して迅速な対応を常に心掛けた。

 取り替えるジョイントの据え付け個所や舗装の擦り付け箇所の施工誤差ゼロを目標に路面の平坦性向上に努めた。「地域住民の方々の立場に立て」「舗装の仕上がりが全てだ」が工事関係者の合言葉だった。工事が安全に進められるのも地域住民の協力があってこそ。感謝の気持ちを込め、お祭りや一斉清掃といった地元の行事にできるだけ参加するなど、地域に寄り添うように腐心した。

 苦情から始まった工事を終えた時、住民から掛けてもらった「ありがとう」の言葉に胸が熱くなった。涙をにじませる工事関係者もいた。「公共事業であれ何であれ、最後は人と人とのつながりが大切だということを思い知らされた」。

 沿線住民が求めていたのは配慮や気配りの姿勢だ。工事によって何がどう変わるのか、丁寧に情報を発信する重要性、信頼関係を築く大切さを学んだ。日本語の土木は英語に訳すとシビルエンジニアリング。「安全で快適な市民生活を創造するのが土木なのだ」と改めて考えるきっかけになった。

 今は現場の最前線に立つ仕事を離れ、全体をマネジメントする立場になった。それでも「現場が大好き」という思いは変わらない。がむしゃらに働き、苦しみも感動も味わったプレーイングマネジャー時代が懐かしくなることもある。時代にそぐわないかもしれないが、「私が1日休めば、日本の近代化は1日遅れる」という使命感を胸に秘め仕事と向き合っている。

 後進の指導も重要な仕事の一つ。社員教育の方法やルールが変化し戸惑いを感じる場面も多々ある。けれども自身がそうであったように「とにかく若者に感動を味わってもらう。これこそが人材育成や技術継承につながる」という思いを持ち続けている。

 「運命は頑張った人に味方する」。熱い思いを持ちながらこれからもインフラづくりに携わっていく。

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